日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 松尾 光一

骨形成性毛細血管がツチ骨の成長板非依存的な骨化を指揮する

Osteogenic capillaries orchestrate growth plate-independent ossification of the malleus.
著者:Matsuo et al.
雑誌:Development. 2015 Nov 15;142(22):3912-20
  • 内軟骨性骨化
  • 耳小骨
  • X線位相微分顕微鏡

松尾 光一

論文サマリー

骨の恒常性維持は破骨細胞の骨吸収と骨芽細胞の骨形成の協調的な作用によって維持されている。転写調節因子Interferon-related developmental regulator 1(Ifrd1)は種々の細胞でその機能的役割を確認されているが、骨の恒常性における役割は未だ明らかとなっていない。本研究でIfrd1は骨芽細胞自身の分化制御機構と骨芽細胞依存的な破骨細胞形成支持機構の両方の重要なメディエーターであることを明らかにした。骨形態計測による解析により、骨芽細胞特異的Ifrd1欠損マウス(α1(I)-collagen-Cre;Ifrd1 fl/flマウス)は野生型と比較して骨形成速度の増加と骨吸収の低下により骨量の増加が認められた。新生児マウス頭蓋骨由来の骨芽細胞培養系では、Ifrd1欠損細胞はRunx2、Osxの発現増加に伴って骨芽細胞の分化、成熟が増強された。また、Ifrd1欠損は転写因子NF-κB構成タンパク質p65と脱アセチル化酵素HDAC1の相互作用の減弱を介して、p65のK122、K123残基のアセチル化を増強した。これはp65の核外への移行とNF-κB依存的なSmad7の発現の減少、それに続くリン酸化Smad1/5/8依存的な転写の増強を起こし、骨芽細胞の分化を促進した。また、骨芽細胞特異的Ifrd1欠損による骨量増加はOsx fl/+の導入により顕著に回復したが、Runx2 fl/+では回復しなかった。一方、骨芽細胞と破骨細胞の共培養系実験により、Ifrd1欠損骨芽細胞はOpgの発現が高く、破骨細胞形成支持能力が低いことが明らかになった。Ifrd1の欠損はβ-cateninとHDAC1の相互作用の減弱を介して、β-cateninのK49残基のアセチル化を増強し、その核内蓄積とβ-catenin依存的なOpgの発現上昇を起こした。これらの結果をまとめると、骨芽細胞におけるIfrd1の発現は、NF-κB/Smad/Osx経路を調節することにより骨芽細胞分化を抑制し、β-catenin/OPG経路の制御により破骨細胞分化を活性化することが明らかとなった。これらの結果はin vivoにおけるIfrd1の発現は骨恒常性維持に重要な役割を持ち、骨疾患における治療標的となることを示唆している。

著者コメント

1st Authorの原著論文は11年ぶりです。何年も前に、NN(第3著者)の紹介で 「X線タルボ干渉計を用いたX線位相微分顕微鏡」を開発している AM(最終著者)に出会いました。0.2ミクロン/ピクセルの解像度をもち、石灰化度を定量的に解析できるという 「X線位相微分顕微鏡CT」を使って、骨を観察してみることになりました。しかし高解像度ゆえ、視野が300ミクロン程度しかありませんでした。マウスの骨でこの狭い視野に収まる部位はあるでしょうか?マウスのツチ骨"短突起"を解析し始めたのは視野にピッタリのサイズだったからです。美しい蛍光免疫染色像は、YK(第2著者)の貢献です。成長板がない耳小骨の利点を活かして、内軟骨性骨化のメカニズムをさらに明らかにしていきたいです。(慶應義塾大学大学院医学研究科細胞組織学・松尾 光一)