日本骨代謝学会

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国際宇宙ステーション内のメダカ飼育実験において、微小重力環境は破骨細胞の活性化を促進する

著者:Masahiro Chatani, Akiko Mantoku, Kazuhiro Takeyama, Dawud Abduweli, Yasutaka Sugamori, Kazuhiro Aoki, Keiichi Ohya, Hiromi Suzuki, Satoko Uchida, Toru Sakimura, Yasushi Kono, Fumiaki Tanigaki, Masaki Shirakawa, Yoshiro Takano and Akira Kudo
雑誌:Scientific Reports, 5, 14172 (2015)
  • 宇宙
  • メダカ
  • 破骨細胞

茶谷 昌宏
バイコヌールで打ち上げを見守る工藤教授(右)と著者(左)

論文サマリー

有人宇宙飛行初期である1970年代、微小重力環境下では生体に多くの影響を及ぼすことが報告され始め、中でも骨量の減少は重要課題であると同時に重力は骨代謝に不可欠の要素であると考えられてきました。筆者らは骨研究のモデル動物であり、1994年のスペースシャトルコロンビア号で宇宙滞在した実績のあるメダカに着目して計画を立てました。骨の変化を調べるため長期的に微小重力環境下で飼育する必要がありましたが、JAXAと三菱重工の共同開発で2012年7月にAQH(水棲生物飼育装置)が国際宇宙ステーション内に設置され、2012年10月から2カ月間の微小重力下での飼育が実現しました。

実験には当研究室で開発した破骨細胞と骨芽細胞が光るトランスジェニックメダカライン(TRAP promoter-GFP/Osterix promoter-DsRed)を使用しました(参考文献1,2)。2カ月間飼育したメダカは微小重力環境に適応した状態を解析するため、ステーション内でPFA固定(組織解析用)あるいはRNAlater保存(遺伝子発現解析用)を行いました。貴重なサンプルを最大限に活用するため、解析順序に工夫が必要でした。最初に体長を測定し、体全体の軟X線解析を行った結果、飛行群において喉にある咽頭歯骨の骨密度の減少が示唆されました。そこで、解剖によって咽頭歯骨を取り出し、蛍光タンパク質の光強度が低下しないように即座に蛍光顕微鏡を用いて破骨細胞と骨芽細胞のシグナルをデータ取得し、その後にマイクロCT解析、免疫染色、酵素反応、蛍光観察、電子顕微鏡解析用にサンプルを分けて解析を行いました。その結果、咽頭歯骨量の減少と共に破骨細胞の体積増加が示され、破骨細胞の特徴である多核化がより進んでいることが分かりました。また飛行群の顎に局在する破骨細胞のミトコンドリアの形態異常が観察され、ミトコンドリアに関連する2つの遺伝子「fkbp5」と「ddit4」の特異的な発現上昇が認められました。これらの遺伝子は、シェアストレスで活性化するとされるグルココルチコイド受容体(GR)の下流で発現することから、破骨細胞内でのリン酸化FAKを調べたところ、飛行群で陽性野の蛍光強度が上昇しており、組織に微小重力特有のストレスが生じて、それが破骨細胞に影響していることを示唆しました。

今回の実験は、世界で初めて宇宙で2ヵ月間の長期に渡って飼育できたことによって得られた成果であり、無重力での骨量減少を解明する新たな手掛かりとなりました。動物モデルが無い老人性骨粗鬆症の原因解明に繋がることが期待されます。

茶谷 昌宏
まさに「宇宙遊泳」するメダカたち(JAXA提供)

参考文献
1) Chatani M, et al: Developmental Biology (2011) 360: 96-109
2) Inohaya K, et al: Development (2010) 137, 1807-1813

著者コメント

宇宙実験の計画を知ったのは、大学2年時に受けた工藤明先生の講義でした。何かダイナミックな生命科学を研究したいと考えていた筆者にとって格好の目標となりました。2005年に研究室所属してから、メダカが宇宙に打ち上がるまで約7年半の歳月が掛かりました。途中、中国のフリーフライヤー実験が突然中止になり意気消沈した時もありましたが研究は継続し、2012年の長期飼育と2014年の短期観察の2回の実験に参画しました。学生時代に宇宙テーマを担当していた根本義之先輩に実験技術を習うことから始まり、JAXA、三菱重工、エネルギア、ロシア宇宙庁、NASA、医科歯科大学、東工大、その他に多くの方々の協力があってこそ成し遂げることが出来、皆様に感謝しております。NASAは将来、月の軌道上にステーションを建設する計画を発表しました(2015年10月現在)。今回の論文が礎となり、宇宙研究がさらに発展することを期待します。(東京工業大学大学院生命理工学研究科生命情報専攻・茶谷 昌宏)