日本骨代謝学会

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非定型大腿骨骨折はビスフォスフォネート使用と大腿骨彎曲に関連する

Low-energy diaphyseal femoral fractures associated with bisphosphonate use and severe curved femur: a case series
著者:Satoshi Sasaki, Naohisa Miyakoshi, Michio Hongo, Yuji Kasukawa, Yoichi Shimada
雑誌:JBMM, Volume 30, Issue 5, pp 561-567

佐々木 聡
向かって右から宮腰准教授、著者。

論文サマリー

近年、ビスフォスフォネート製剤(BP)使用中に生じる非定型大腿骨骨折(AFF)の報告例が相次いでいる。米国骨代謝学会(ASBMR)ではAFFを大腿骨内側にspike形成を伴った横骨折、もしくは短い斜骨折で、骨片の粉砕を伴わないもの、かつ大腿骨転子下、もしくは骨幹部に生じると定義している。その病態はBP投与に伴う過剰な骨吸収抑制(SSBT)がマイクロダメージの蓄積を来した結果生じるとされるが、一方でBP投与例がない症例および大腿骨の彎曲が強い例でのAFF発生も報告されている。大腿骨彎曲とAFFの関連を論じた報告はなく、本研究ではこの点にfocusをあてて検討した。

ASBMR task force reportの定義に準じたAFF症例は 9例12大腿骨で、全例女性、初回受傷時の平均年齢は75.6歳であった。全例ともに大腿骨骨幹部骨折であり、かつ何らかの骨粗鬆症治療を受けていた。8例はBP製剤を含んだ治療薬の投与を受けており、1例はラロキシフェンとメナテトレノンの投与を受けていた。平均投与期間は3.6年であった。前駆症状としての大腿部痛は3例で存在していた。これらの内、健側の大腿骨単純レントゲンを撮影していた7大腿骨と、対照例として同期間に同一施設で大腿骨単純レントゲンを撮影した性別、年齢について一致させた24例について、大腿骨の彎曲を正面、側面写真から計測した。

佐々木 聡

さらにASBMR reportにある大腿骨骨皮質幅を計測し、肥厚の有無について検討した。結果、正面、側面共にAFF群で有意な彎曲の増大を認めた(表)。一方、大腿骨骨皮質の肥厚に関しては、両群間で有意差はなかった。

本研究の結果から、AFFの発生要因の一つとして大腿骨彎曲の増大が関与していると示唆された。大腿骨彎曲が増大している例では、大腿骨中央部へのストレス集中が骨折要因となるとの報告もある。しかしBP投与によるSSBTに伴うAFFと大腿骨彎曲増加に伴うAFFが、なぜ同様の骨折型を呈するのか、また大腿骨彎曲を生じる要因も不明であり、骨代謝マーカー測定や骨標本の検討などを加えた今後の研究発展が期待される。

著者コメント

私が最初に大腿骨非定型骨折の症例に遭遇したのが2005年の事なので、もう10年経ちました。当時は本骨折の知識もなく、通常通りの治療をして順調に骨癒合しましたが、2年ほど後に反対側の大腿部痛を生じました。これが前駆症状と気づく由もなく、腰由来の症状かと入院していただき脊髄造影を予定していましたが、入院翌日に車いすに乗ろうとしただけで大腿骨骨折を生じました。顆上部の骨折であったので、反対側同様にretrograde nailを用いましたが、遷延治癒となりlocking screwを抜去したところ、nailの近位端が大腿骨彎曲のため皮質骨内面に食い込み十分なダイナミゼーションが出来ないばかりか、nail先端部での骨折が危惧される事態となり大変難渋しました。その辺りからBP剤使用中の非定型骨折発生例が散見されるようになり、さらに自分でも数例を経験しました。その中で大腿骨の彎曲が著しい例が見られ、非定型骨折との関連を感じていましたが評価の方法に思い至らず苦慮していたところ、当地に講演にいらした鳥取大萩野教授からご教示いただいたことが本研究のきっかけとなりました。執筆途中にASBMR task forceの第一報が発表されましたが、大腿骨彎曲との関連性には触れておらず仮説が正しいのか不安もありましたが、JBMMにacceptしていただき論文賞まで戴いたのは光栄の至りです。本論文はacceptまで1年以上を要し、途中で心が折れかけましたが秋田大学宮腰尚久准教授のご指導と励ましのお陰でこのような形に出来ました。宮腰准教授に厚くお礼を申し上げると共に、さらに本骨折の病態解明が進むことを祈念いたします。(東成瀬村国保診療所・佐々木 聡)