リウマチ因子は関節リウマチにおける手の骨破壊の分布に関連する
著者: | Terao C, et al |
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雑誌: | Arthritis Rheumatol. 2015 Dec;67(12):3113-23. doi: 10.1002/art.39306. |
- 関節リウマチ
- 骨破壊
- 症状の分布
論文サマリー
関節リウマチは骨破壊を主徴とする慢性炎症性関節炎で全人口の0.5-1.0%が罹患する。本邦では70万人程度の患者数であると推定されている。これまでの関節リウマチの研究では骨破壊のスピードに関連する因子の研究は盛んにおこなわれてきたが、骨破壊の分布に関連する因子の研究はほとんど行われていない。我々は以前に、関節リウマチ患者において日常臨床で評価に用いられる28関節における滑膜炎は症状の出方のパターンから大きく2つ、1.指関節2.大関節および手関節に分類できることを示した(Terao et al, PLoS ONE 2013).このことは、関節リウマチの滑膜炎のメカニズムが共通でなく、関節グループ毎に異なる可能であることを示すものである。 骨破壊は滑膜炎の影響の蓄積による最終結果であるため、骨破壊の分布も滑膜炎同様に分類でき、なおかつ分布を決める因子があるのではと考えて解析を行った。
京都大学におけるリウマチ性疾患コホートであるKURAMAコホートに登録された316名の関節リウマチ患者および東京女子医科大学の関節リウマチコホートであるIORRAの899名における手関節のX線スコア(TSS)を用いて解析すると、関節破壊も1.指関節(finger)2.手部のその他の関節(non-finger)に分類可能であった。Non-fingerの破壊の影響を考慮した上でfingerの破壊を評価すると、RFの陽性・陰性およびRF陽性者のみの解析でRF力価(最大値)が関連していた。いずれもKURAMA,IORRAの両コホートで確認できた。
治療の影響を厳密に考慮するため、早期RAを対象として治療を厳密にコントロールしているオランダのBeSt studyのデータを用いて解析すると、治療群の割り当てを考慮しても、study開始後の10年後のfingerTSSはRF陽性群が陰性群よりもnon-fingerTSSで補正しても高かった。
関節リウマチの自己抗体として抗CCP抗体はRFよりも特異度が高く、疾患重篤度を鋭敏に予測 することが知られている。一方で、本解析では抗CCP抗体はRFほどには分布に関連せず、RFの影響を考慮するとその関連は消失した。これは、抗CCP陰性RF陽性患者群は抗CCP・RF陽性患者群と同様に骨破壊を示すが(Terao et al, PLoS ONE 2012)、指関節破壊においても同様であるためであることが示された。
A:手の骨破壊は指関節とそれ以外でグループ分けされる。
B:指の骨破壊はそれ以外の骨破壊の影響を考慮すると、RFの陽性と関連し、RF陽性者だけで見るとその力価と関連する。
著者コメント
本論文の着想は「手関節ばかり破壊されている人がいる」、「指の破壊がひどい人はseropositive(RF・抗CCP抗体が陽性)の人、さらに抗体価が高い人が多い」という臨床経験上での印象から来ています。同様に感じているDrが多いことも解析をする後押しとなりました。リウマチ医が日常臨床で感じていることを証明できたこと、これまで自分たちの論文で示して来た知見と絡めることが出来たこと、KURAMA、IORRAという日本の代表的リウマチコホートとオランダデータを組み合わせることが出来たという点から、思い入れのある論文となりました。今後も国内・国際的な協力関係を進めて良いエビデンスを発信できればと思います。(京都大学ゲノム医学センター疾患ゲノム疫学解析・寺尾 知可史)