向かって右から；林松彦先生（慶應義塾大学教授）、著者。

論文サマリー

　膜型klotho蛋白がFGF23の受容体形成に必須であることは良く知られている。膜型klotho蛋白は膜直上でADAMにより切断され、分泌型klotho蛋白として放出され血液中でも検出できるようになる。分泌型klotho蛋白は、色々なチャンネルや受容体等の膜蛋白やメディエター分子と相互作用し、それらの生理活性を調節することで遠隔臓器に作用を及ぼすことが知られている。分泌型klotho蛋白は、TGFβ受容体やIGF受容体と相互作用して、線維化を抑制し、また、酸化ストレスを軽減してクロト過剰発現動物の長寿と関係するとされている。今回は分泌型klotho蛋白とPTH受容体の相互作用について検討した。方法としては、免疫沈降や培養尿細管細胞を使用したin vitroの実験に加えて、klotho KO miceなどを使用したin vivoの検討も行った。免疫沈降法では、抗PTH受容体抗体でコートしたセファロースビーズに、ますPTH受容体を結合させ、その後に分泌型klotho蛋白を添加した。そして、ビーズを洗浄の後、ビーズに残余した蛋白をblotした。

Cell-free binding study: Recombinant human klotho (r-klotho) binds to human PTH receptor (PTH-R). Proteins resided on the bead were detected using anti-klotho antibody. Especially at high concentrations (in log M), the binding of r-klotho with PTH-R is evident. Experiments using kidney homogenate (KH, second lane) indicate that endogenous rat klotho (m-klotho) also binds to endogenous PTH receptor. Consistent results were obtained in 4 separate experiments. Note that the molecular weight of r-klotho is approximately half of that of m-klotho, because r-klotho composes only KL-1. PTH-R-ab-H and PTH-R-ab-L depicted heavy and light chain of PTH-R-ab.

分泌型klotho蛋白はビーズに残余し、分泌型klotho蛋白とPTH受容体は結合することが示唆された。この免疫沈降のデータを初めて見た時の驚きは今でも忘れられない。そして、ヨード同位体でラベルしたPTHを用いて検討したところ、分泌型klotho蛋白はPTHとPTH受容体の結合を阻害することが示された。また、培養尿細管細胞を用いた実験では、PTHを添加すると濃度依存的にIP3の産生が増加するが、この反応を分泌型klotho蛋白が抑制することを示した。分泌型klotho蛋白は、β-glucosidase活性を有すると考えられるが、この活性を阻害してもPTHによるIP3産生に対する分泌型klotho蛋白の効果は影響を受けず、その酵素活性とは独立に分泌型klotho蛋白はPTH受容体と相互作用することが示唆された。そして、正常動物の腎臓に分泌型klotho蛋白を投与しておくと、PTH投与に伴う尿中cAMP排泄が低下することが証明できた。同時にPTH投与に伴い25-Hydroxyvitamin D3 1-alpha-hydroxylase (CYP27B1) やカルシトリオールが増加するが、分泌型klotho蛋白による処置はこれらの反応にも抑制効果を示した。更に、klotho KO miceは高カルシウム血症などの代謝異常を呈するが、分泌型klotho蛋白を投与すると、これらの代謝異常が是正されることが認められた。以上より、分泌型klotho蛋白がPTH受容体と相互作用してPTHのシグナル伝達に負の影響を与えると結論した。

著者コメント

　現在、進行性腎疾患に対しては抗体治療の様な特効薬がなく、腎臓で産生される分泌型klotho蛋白の腎保護効果について検討を重ねている。ある日、慢性腎臓病モデルの動物に分泌型klothoを投与すると腎機能悪化にブレーキがかかるが、カルシトリオールは低下してしまうことを見出した。ビタミンD工場である腎臓が悪くならないのであればカルシトリオールも低下しないはず、「なぜ？」という素朴な疑問が出発点である。その後も現在まで多くの先生に協力していただき研究を進めている。分泌型klotho蛋白はとてもstickyで多くの蛋白と結合するので、その作用も多岐にわたると思われる。カルシウム・リン代謝のキープレイヤー、klotho蛋白の役割を解明するためにも、若い先生方の参入を歓迎します。（国際医療福祉大学・竹中 恒夫）