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傾向スコアマッチングを用いたアバタセプトおよびトシリズマブの臨床効果の比較検討

Comparison of the efficacies of abatacept and tocilizumab in patients with rheumatoid arthritis by propensity score matching.
著者:Satoshi Kubo, Shingo Nakayamada, Kazuhisa Nakano, Shintaro Hirata, Shunsuke Fukuyo, Ippei Miyagawa, Kentaro Hanami, Kazuyoshi Saito, and Yoshiya Tanaka
雑誌:Ann Rheum Dis. 2015 Aug 5 [Epub ahead of print]
  • 関節リウマチ
  • 生物学的製剤
  • 治療

久保 智史

論文サマリー

 関節リウマチの治療として、TNF阻害薬に加えてIL-6を標的としたトシリズマブやT細胞を標的としたCTLA-4 Igアバタセプトが登場した。アバタセプトおよびトシリズマブは、臨床試験や臨床研究の結果を受け、メトトレキサート治療抵抗性の症例に対してTNF阻害薬と同等に位置づけられるに至った。今後は、それらの生物学的製剤をどのように使い分けていくかが非常に重要な課題であるが、アバタセプトとトシリズマブを比較した試験は存在せず、臨床効果の比較、薬剤の選択根拠の設定は困難となっている。そこでアバタセプトを投与した194例およびトシリズマブを投与した273例を対象とし臨床効果の比較と臨床予測因子を検討した。

 本報告により日常診療において、アバタセプトとトシリズマブはその継続率、臨床的寛解到達率および機能的寛解到達率の全てにおいて同等であることが示された。一方で、効果予測因子に関しては明確な違いが現れた。アバタセプトにおいては治療開始前のSDAIが低くRFが高い症例で効果が出やすく、トシリズマブではbio naive でHAQ-DIが低いほど52週におけるSDAIが低下することが示唆された。

 また本報告では傾向スコアマッチングを用いて解析を行った。これは観察研究からRCTsに近い質の高いエビデンスを構築するために得る手法として注目されている。これまでのリウマチ領域においてはRCTsによる結果が重視され、観察研究が軽視される傾向にあった。しかしながらRCTsを用いた臨床試験では導入基準と除外基準が設けられており、必ずしも日常診療に則した結果とは言いがたい。一方、観察研究ではRCTではないために選択バイアスが必発し、群間の背景因子が異なるのが通常で、異なる薬剤などの群間比較は事実上不可能である。本研究では日常診療におけるアバタセプトとトシリズマブの臨床効果を傾向スコアマッチングを用いて直接比較を行った。即ち、多くの患者背景因子から多変量ロジスティック回帰分析によって傾向スコアを算出し、アバタセプトとトシリズマブの2群間の選択バイアスの調整を行い、無作為化比較試験と同様に患者背景の相同した2群間の比較が可能となった。

久保 智史

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久保 智史

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 以上、日常診療におけるアバタセプトとトシリズマブの直接比較の結果、両薬剤が同等の継続率、臨床的効果を持つことを示した。今後、このような画期的な統計学手法を用いた検討による日常診療におけるエビデンスの構築が、生物学的製剤を用いたテーラーメイド医療につながることが期待される。

著者コメント

 本報告は田中良哉教授から2015年1月に傾向スコアマッチングの着想を頂き、論文作成にとりかかり、4月に初稿を投稿、その2週間後には好意的なリバイスが来てあっという間にアクセプトされました。一方で2年前に同じジャーナルにin vitroの研究結果を発表した時には、25以上に渡るメジャーリバイスがあり心が折れそうになったのを覚えています。論文には新しい知見と新しい研究手法の両方が必要で、それらが揃うとアクセプトされやすくなることを実感しました。ともあれ、この研究が少しでも医学の発展につながれば嬉しいです。感謝と謙虚な気持ちを忘れず、情熱を持って今後も臨床、研究に真摯に向き合って行きたいと思っています。また、言うまでもなく田中良哉教授始め教室の皆さまにいつも感謝しております。そして写真は(言うまでもなく)尊敬する先生方とです。(産業医科大学 第一内科学講座・久保 智史)