日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 滝本 晶

ScleraxisとOsterixは互いに拮抗して張力応答性の歯周靱帯と歯槽骨のリモデリングを制御する

Scleraxis and osterix antagonistically regulate tensile force-responsive remodeling of the periodontal ligament and alveolar bone
著者:Takimoto A*, Kawatsu M*, Yoshimoto Y, Kawamoto T, Seiryu M, Takano-Yamamoto T, Hiraki Y, Shukunami C.
*は筆頭共著者
雑誌:Development. 2015 Feb 15; 142(4):787-96.
  • 歯周靱帯
  • メカニカルストレス
  • 転写因子

滝本 晶
京都大学再生医科学研究所生体分子設計学分野にてDr. Ronen Schweitzer (左前) と 著者ら
(2013年6月 第8回研究所ネットワーク国際シンポジウム)

論文サマリー

 歯周靱帯は、歯根のセメント質と歯槽骨を強靱に連結する線維性の結合組織で、咬合力などのメカニカルストレスに応答して、歯周組織をリモデリングする役割を担っている。歯に歯周靱帯を介して矯正力が加わると、牽引側と圧迫側の歯槽骨に骨の形成面と吸収面が出現し、歯周組織がリモデリングすることにより歯が移動する。牽引側に隣接した歯周靱帯は、張力負荷に応答する線維芽細胞や骨芽細胞の供給源となり、歯槽骨の骨形成を促進していることが知られている。Scleraxis (Scx)及びOsterix (Osx)は、それぞれ腱・靱帯細胞及び骨芽細胞の分化成熟を制御する重要な転写因子である。本研究では、歯周靱帯に発現するScxとOsxが拮抗的に作用して、骨芽細胞と線維芽細胞の分化成熟を制御していることを明らかにした。

 歯周靱帯におけるScxの発現は、Scxの発現領域でGFPを発現するScxGFP Transgenic mouse (ScxGFP Tg)の非脱灰凍結切片を用いて解析した。Scxの発現は、歯周靱帯では歯の萌出に伴って誘導されていたが、その発現レベルは、圧迫力のかかる根尖周囲では極めて低く、歯冠部近傍に出現する伸長した形態の細胞では高い傾向が認められた(図)。

滝本 晶
ScxGFP Tgの臼歯・歯周組織の模式図(左)と歯周靱帯の蛍光写真(右)

ScxとOsxの発現を解析した結果、6週齢のマウスにおいては、根尖周囲を除いた歯周靱帯全体でScxとOsxを共発現する(Scx+/Osx+)歯周靱帯細胞が観察された。ScxGFP Tgの上顎第一臼歯と上顎第二臼歯に、Waldo法に従ってエラステッィクモジュールを挿入し歯の実験的移動を行ったところ、牽引側の歯周靱帯では、Scxを高いレベルで発現する(Scxhigh)歯周靱帯細胞が顕著に増加していた。また、骨形成を促進するBMPシグナリングが牽引側で活性化し、Scx+/Osx+及びScxhigh/Osx+の歯周靱帯細胞が増加していた。

 張力応答性に誘導される骨形成に対するScxの役割を検討するため、歯周靱帯細胞をin vitroで骨分化誘導し、Scxの過剰発現及びノックダウンによる影響を検討した。その結果、Scxを過剰発現した歯周靱帯細胞では、石灰化の抑制及びOsteocalcin (Ocn)の発現の低下が認められた。逆にScxをノックダウンした場合は、Ocnの発現上昇が誘導された。従って、Scxは歯周靱帯細胞からの骨芽細胞の分化成熟に対して抑制的に作用することが明らかになった。以上の結果から、張力応答性の歯周組織リモデリングの制御において、Scxは過剰な石灰化・骨化を抑制することにより歯周靱帯の一定の幅を維持し、骨形成に必要なOsxと共に歯周組織の恒常性維持に寄与していることが示唆された。

著者コメント

 本研究は「再生医学・再生医療の先端融合的共同研究拠点」の研究課題として、京都大学再生医科学研究所の開祐司先生・宿南知佐先生(現広島大学)と、東北大学大学院歯学研究科の山本照子先生との共同研究によりスタートしました。東日本大震災による被災がきっかけになって、当時、東北大学大学院歯学研究科の大学院生であった川津正慶先生が、仙台を離れて2年4ヶ月京都に滞在し、マウスでの歯の移動実験を共同で進めました。
 歯周靱帯は歯と歯槽骨という高度に石灰化した硬組織に囲まれており、これまで脱灰せずに組織学的解析を行うことが難しい組織でした。本研究では、非脱灰凍結切片の作製技術(川本法)の開発者で共同研究者でもある川本忠文先生からもアドバイスをいただきながら、特異性が高くかつ感度の良い免疫染色を行うことができました。共著者の皆様をはじめ、本研究をサポートしてくださいました方々に心より感謝致します。(京都大学再生医科学研究所・滝本 晶)