野尻 英俊（左）、小池 正人（中央）、清水 孝彦（右）

論文サマリー

　活性酸素と変形性関節症（OA）の関連性が注目されているものの、関節軟骨から発生する活性酸素が軟骨変性の原因となるのか不明な点が多い。本研究では、関節軟骨の主細胞である軟骨細胞の加齢性変化と過度な機械的刺激下での活性酸素（ミトコドリアスーパーオキシド）産生と軟骨細胞機能に着目した。軟骨細胞の人為的なミトコンドリア酸化・還元バランス破綻（酸化ストレス状態）が、実際に軟骨細胞機能を変化させ、関節軟骨変性を誘導するかどうかを実証するために、軟骨細胞特異的遺伝子欠損技術を用いて解析を行った。軟骨細胞特異的Sod2欠損マウスは、軟骨細胞でミトコンドリアスーパーオキシドの過剰産生が生じ、加齢性に関節軟骨の変性が認められた。

12ヶ月齢の野生型マウス膝軟骨切片のサフラニンO染色像

12ヶ月齢の欠損型マウス膝軟骨切片のサフラニンO染色像

細胞レベルでもミトコンドリア機能不全（ミトコンドリア腫大・膨化、膜電位の低下）と、細胞外基質の合成・分解のバランス破綻（Col2a1, Acanの低下、Mmp3, 13, Adamts5の増加）を認め、個体レベルでのデータを支持した。さらに靱帯切除により半月板を不安定化した過度な機械的負荷では、ミトコンドリアスーパーオキシドの増加に加えて、関節軟骨変性が増悪した。驚いたことに、野生型マウスに同様の機械的負荷を施すと、軟骨細胞のミトコンドリアスーパーオキシド増加に加えて、SOD2遺伝子発現が特異的に低下した。OA患者軟骨での複数の報告から、OA軟骨で、SOD2遺伝子発現とSOD2タンパク質のいずれも低下していたことから、SOD2低下とOAの関連性を強く示唆した。最後に、機械的負荷マウスの膝関節腔内に抗酸化剤を投与すると、有意なミトコンドリアスーパーオキシド産生の低下と軟骨変性の改善が認められ、治療効果を確認した。

　以上の結果から、適度な機械的刺激は軟骨に保護的に作用することから、機械的負荷により消去しきれないミトコンドリアスーパーオキシドが軟骨変性を促すと考えられる。軟骨細胞のミトコンドリアスーパーオキシドとSOD2が軟骨変性の治療標的となりうると考えている。（千葉大学大学院医学研究院・清水 孝彦）

筆頭著者コメント

　本研究は、変形性関節症患者の軟骨でSOD2が有意に下がっているという報告を野尻先生に教えていただいたことがきっかけです。当時、清水先生の研究室では組織別にSOD2欠損マウスを作製することで酸化ストレスの影響を盛んに解析されていました。軟骨組織については未開拓で、院生の私はタイミングよく研究の機会を頂きました。軟骨は非常に小さな組織であることから解析困難なものばかりで、マウス膝関節軟骨細胞の単離をはじめプロトコール構築に難渋しました。しかしながら、変形性関節症を何とかしたいという強い気持ちを持って研究を進めた結果、活性酸素と軟骨変性の関連性を明快に明らかにできたこと、さらには変形性関節症の予防治療に貢献しうるデータを出せたことは大きな財産です。軟骨研究を進めていくうえでの基礎研究のイロハをご指導くださった清水孝彦先生、4年間という貴重な時間を基礎研究に集中させてくださった金子和夫先生、活性酸素とOAという分野に研究のきっかけを導いてくださった野尻英俊先生はじめ、多くの先生方にサポート頂けたこと、心より感謝申し上げます。（順天堂東京江東高齢者医療センター・小池 正人）