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低浸透圧ストレスで発現低下する軟骨細胞ClC-7クロライドチャネル

The ClC-7 chloride channel is downregulated by hypoosmotic stress in human chondrocytes
著者:Kurita T, Yamamura H, Suzuki Y, Giles WR, Imaizumi Y.
雑誌:Mol Pharmacol. 2015 July;88(1):113-120.
  • 変形性関節症
  • 軟骨細胞
  • クロライドチャネル

山村 寿男・今泉 祐治

論文サマリー

 変形性関節症は、関節疾患の中で最も罹患率が高く、自覚症状がある1,000万人の患者を含め、潜在的な罹患者数は約3,000万人と推定される。変形性関節症では、全身の関節の痛みや腫れ(関節水腫:俗に言う“関節に水が溜まる”状態)を生じ、可動域低下や歩行機能障害などの症状を引き起こすため、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)に多大な影響をおよぼす。しかし、変形性関節症の発症機構については不明な点が多く、根本的な治療法は確立していない。

 本研究では、軟骨細胞に発現するクロライドチャネルに注目し、その生理機能と変形性関節症との関連を解析した。軟骨細胞モデルとして汎用されているヒト軟骨肉腫由来細胞株(OUMS-27)において、クロライドチャネル分子の一種であるClC-7のmRNAおよびタンパク質の発現(図左はウェスタンブロット法;図右は免疫細胞化学染色法)が認められた。そこで、ホールセルパッチクランプ法を適用し、電気生理学的解析、薬物感受性試験、およびsiRNAノックダウン実験を行った結果、OUMS-27細胞において、ClC-7チャネルが機能発現していることを見出した。さらに、OUMS-27細胞に発現するClC-7チャネルが、静止膜電位の形成や細胞内カルシウム濃度の決定に寄与していることを明らかにした。

山村 寿男・今泉 祐治

 変形性関節症患者の滑液の浸透圧(249~277 mOsm)は、健常者(295~340 mOsm)より低いことが知られている。そこで、変形性関節症患者の滑液の浸透圧を模倣した低浸透圧環境下でOUMS-27細胞を短期間培養した。その結果、ClC-7チャネルの発現量および機能活性が、顕著に減少した。また、MTTアッセイの結果、低浸透圧環境下では、OUMS-27細胞の生存率も低下した。

 以上の結果より、軟骨細胞の生理機能にClC-7クロライドチャネルが関与していることが明らかとなった。また、変形性関節症患者の滑液を模倣した低浸透圧ストレス負荷において、ClC-7チャネルの発現低下が認められた。ClC-7チャネル活性の低下は、細胞膜の過分極を介して細胞内カルシウム濃度の増加を惹起し、アポトーシスなどの細胞死を誘発すると推測される。本研究成果は、変形性関節症の発症および病態機構の解明や、ClC-7チャネルを分子標的とした変形性関節症の新規治療薬の開発につながることが期待される。

著者コメント

 本研究は、大学院生・栗田卓さんの修士論文の一部です。我々の研究室では、変形性関節症の病態機構を解明するため、軟骨細胞に機能発現するイオンチャネルに注目しています。栗田さんは、軟骨細胞の生理機能に関与するクロライドチャネルとして、ClC-7チャネルを同定し、その機能解析を展開しました。特に、変形性関節症患者の滑液と同じ低浸透圧環境下において、ClC-7の発現低下を明らかにした意義は大きいと思われます。今後も、軟骨細胞の恒常性を維持する分子や変形性関節症のような病態で発現変化する分子を解析し、変形性関節症の新規治療薬に向けた標的創薬を目指していきたいと思います。(名古屋市立大学 大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野・山村 寿男・今泉 祐治)