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TOP > 1st Author > 山本 健太

ダイレクト・リプログラミングによる機能的ヒト骨芽細胞の創出

Direct conversion of human fibroblasts into functional osteoblasts by defined factors.
著者:Yamamoto K, Kishida T, Sato Y, Nishioka K, Ejima A, Fujiwara H, Kubo T, Yamamoto T, Kanamura N, Mazda O.
雑誌:Proc Natl Acad Sci U S A. 2015 May 12;112(19):6152-7.
  • 骨芽細胞
  • ダイレクト・リプログラミング
  • 再生医療

山本 健太

論文サマリー

 高齢化が進む中、骨疾患は極めて深刻な医療上の問題となっている。骨腫瘍の摘出後の大きな骨欠損、骨粗鬆症性骨折後の癒合不全、歯周病に伴う歯槽骨吸収による歯牙の喪失などは、患者のQOLとADLを著しく低下させる。これら疾患に対して、間葉系幹細胞(MSC)を移植すればこれらから骨芽細胞が分化し、効果的な再生治療となりうるが、細胞の採取に侵襲を伴い、また得られる幹細胞数が不十分な例も多い。とりわけ高齢者から採取したMSCは、増殖能と骨芽細胞への分化能が低いという問題点がある。

 心筋細胞、軟骨細胞などについては、線維芽細胞からiPS細胞を経由することなく、直接誘導(ダイレクト・リプログラミング)できることが示されている。もし患者から低侵襲に採取できる体細胞から、機能的骨芽細胞を効率良く誘導し、骨病変部に移植することが出来れば、迅速、簡便、安価で腫瘍化の危険性が低いなど多くの利点を有した、骨再生のための新しい移植用自家骨芽細胞を提供できると期待される。

 我々は、ヒト線維芽細胞にRunx2、Osterix、Oct3/4、およびL-Mycの4つの転写因子の遺伝子を導入し、石灰化誘導培地で培養することにより、その約80%を骨芽細胞に直接変えることに成功した。得られた骨芽細胞(dOB)は石灰化骨基質を産生し、骨由来の骨芽細胞に類似の網羅的遺伝子発現プロファイルを呈した。免疫不全マウスの大腿骨に人為的骨欠損を作成後、欠損部位にdOBを移植すると、骨再生が著明に促進した。骨芽細胞の誘導過程において、多能性マーカーは全く発現しなかった。また導入した転写因子を一過性に発現させることによっても骨芽細胞は誘導され、その後外来遺伝子の発現をシャットダウンしても骨芽細胞としてのフェノタイプを保ち続けること、その際内在性のRunx2が発現し続けていることから、ヒト線維芽細胞が骨芽細胞に直接リプルグラミングしたことが示された。なお、線維芽細胞のソースとして歯肉および皮膚由来の線維芽細胞を用いたが、いずれからも同じ手法で骨芽細胞が直接誘導出来た。

 ヒト骨芽細胞の直接誘導はこれまでに報告がなく、今後この技術を発展させることで新規骨再生療法となり得る可能性が示唆された。また本研究の成果は、再生医療への応用のみならず、さまざまな骨疾患を対象とした、発症・進展機序の解明、創薬、薬剤の副作用解析などの用途にも有用であろうと考えられた。

著者コメント

 大学院時代には骨芽細胞に関わる研究を行っており、その頃から骨疾患に関わる再生医療の仕事を行いたいと常々思っておりました。iPS細胞が報告されて以来、細胞リプログラミングの分野は急速な発展を遂げ、そのような社会情勢もあって、今回の研究を行うことを着想致しました。この研究を始める時点では、細胞リプログラミングに対する知識がほとんどない私でしたが、そんな状況の中、松田教授と岸田准教授に、マンツーマンでしっかりとご指導頂いたおかげで、なんとか今回の発表にこぎつけることが出来たと思っております。今回の論文が受理されるまでには、初投稿時から長い時間がかかり、数々の苦労がありましたが、あきらめずに挑戦することで道は開けてくると改めて思いました。今後もさらなる研究結果を発表出来るよう努力していきたいと思っております。(京都府立医科大学 歯科口腔科学・山本 健太)