日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 田上 隆一郎

アレンドロネートが抜歯窩の骨形成に与える影響

Effect of Alendronate on Bone Formation during Tooth Extraction Wound Healing.
著者:Tanoue R, Koi K, Yamashita J.
雑誌:2015 Sep;94(9):1251-8. doi: 10.1177/0022034515592867
  • ビスフォスフォネート
  • 骨形成
  • 創傷治癒

田上 隆一郎

論文サマリー

 ビスフォスフォネート(BP)製剤の骨吸収抑制作用については多くの研究報告があり,その機序は解明されつつあるが, BP製剤が骨形成に与える影響については未だ不明なことが多い.BP製剤の投与が骨形成を促進するという報告もあれば,骨形成を阻害し,それがBP関連顎骨壊死(BRONJ)の発症に関与しているという仮説も存在する.本研究では,骨粗鬆症治療薬として広く使われているBP製剤,アレンドロネート(ALN)を用いて,ALNの投与が骨形成に与える影響を評価した.

 まず,マウス抜歯窩治癒モデルを用い,ALNの投与が大臼歯抜歯窩の骨形成と軟組織治癒に与える影響を調べた.その結果,ALNの投与は抜歯窩骨形成には影響しないが,結合組織の治癒を有意に抑制することがわかった.本来,炎症性細胞浸潤は抜歯後1週間ほどで解消するが,ALNを投与すると抜歯後3週経った創部においても好中球の浸潤が認められ,コラーゲン繊維やリンパ管の形成も有意に遅れていた.ALN投与群では抜歯窩辺縁の骨に骨細胞が消失した空の骨小腔が多く認められ,炎症性細胞浸潤の強弱は空の骨小腔の量と比例していることが明らかとなった.このことより,炎症の滞留は抜歯操作で損傷をうけた骨の修復遅延と相関していると考えられた.

 次に,抜歯窩新生骨からRNAを抽出し,骨形成に関連する遺伝子の発現をPCR Arrayで調べた.その結果, ALN投与群ではコントロール群に比べBmpシグナリング関連遺伝子が活発に発現していることがわかった.これは,ALNが骨形成に何らかの影響を与えることを示している. ALNが骨形成に与える影響をさらに詳しく調べるために,骨損傷と炎症の影響を受けない異所性骨移植モデルを作製した.生後2~3日のマウスから新鮮脊椎を採取し,成熟マウスの皮下に移植後,ALNを投与して移植脊椎片の成長を評価した.この方法は,抜歯に伴う外傷,唾液や口腔内細菌による露出骨の感染の影響を排除できるために,ALNが骨成長に与える影響をより正確に評価することができる.その結果,ALNは移植脊椎の成長を促進し,骨量比を有意に増大させることがわかった.さらに,ALNは移植骨内のアルカリフォスファターゼ活性を著しく向上させることも明らかとなった.このことはALNの投与が移植骨内の骨芽細胞を刺激し骨形成を促したことを示している.骨増生の陽性対照群として副甲状腺ホルモン(PTH)の間欠投与も行ったが,ALN投与群とPTH投与群共にアルカリフォスファターゼ活性は大きく上昇し,両者間で差は認められなかった.本研究結果は,アレンドロネートが生体内で骨吸収抑制作用をもつだけではなく骨形成賦活作用も持つことを示唆している.

田上 隆一郎

著者コメント

 生体内では骨吸収と骨形成の相互作用の結果として骨量が存在するので,両者を切り離して議論することはできません.本研究ではALNの投与によって骨吸収が抑制されており,増大した骨量が,骨吸収抑制だけの効果なのか,骨形成の賦活も寄与しているのかを明確にすることは大きなチャレンジでした.我々は,アルカリフォスファターゼ活性が上昇していることを組織学的手法を使って証明し,この問題点を克服しました.しかしながら,骨形成の賦活に至るメカニズムの解明はこれからです.骨吸収という生物学的イベントが,骨形成をどのように制御しているのかを明らかにすることは,臨床的にも学術的にもたいへん興味深く,ライフワークとしてこれからも頑張って行きたいと思ってます.
本研究はミシガン大学歯学部の山下研究室で行いました.留学という限られた時間内にこのような成果を出せたのは,山下博士の強いサポートのお陰です.ありがとうございました.最後になりましたが,留学の機会を快く与えてくださった久留米大学の楠川教授に厚く感謝いたします.(久留米大学医学部歯科口腔医療センター・田上 隆一郎)