日本骨代謝学会

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グルコースの取り込みと転写因子Runx2が骨芽細胞分化と骨形成の協調において果たす役割

Glucose Uptake and Runx2 Synergize to Orchestrate Osteoblast Differentiation and Bone Formation.
著者:Wei, Shimazu et al.
雑誌:Cell, Vol. 161, Issue 7, p1576–1591, 2015
  • Runx2
  • AMPK
  • GLUT1

島津 絢子

論文サマリー

 骨芽細胞は、骨形成を行う細胞であり、骨基質の主な成分で骨形成を示すバイオマーカーとして知られている一型コラーゲンを産生する役割を持つ。他方、骨芽細胞分化にとって、RUNX2は必要不可欠な転写因子である。事実、Runx2ノックアウトマウスにおいて、骨芽細胞の分化が見られず、骨形成もない。しかしながら、In vitroの実験においてはRUNX2が一型コラーゲン遺伝子を制御する報告がなされたものの、In vivoの実験においては、Runx2遺伝子の発現よりも前に一型コラーゲンが産生されることが分かっており、この報告は、骨芽細胞の分化と骨形成のプロセスには明確なつながりがないことを示しているかのように見えた。これを前提とした場合、どのように骨形成が制御され骨芽細胞の分化と協調されているのかという疑問が生じた。

 また、骨芽細胞は内分泌細胞であることが分かっており、分泌されるオステオカルシンは糖代謝を制御することが知られている。しかし、なぜ骨が糖代謝を制御しなければならないのかについては解明されていなかった。

 これらの疑問を踏まえ、筆者たちは、骨と糖代謝の間のクロストークに注目し、骨芽細胞のエネルギー要求を研究することにより、骨芽細胞の分化と骨形成のプロセスがどのように調和され、生涯にわたって維持されているのかという疑問に答えられないかと考えた。

 結果、骨芽細胞は主な栄養源をGLUT1グルコース輸送体から取り込まれるグルコースに依存していることを明らかにした。このグルコースの取り込みがAMPKを制御することにより、一つのメカニズムとしてRUNX2の蓄積と骨芽細胞の分化が促進されるとともに、AMPKを介した別のメカニズムにより、一型コラーゲンの産生と骨形成が促進されることを発見した。

 また、グルコースの取り込みが阻害されている場合、RUNX2は骨芽細胞の分化を促すことができないが、グルコース血中濃度を上げる事で、Runx2遺伝子欠損の骨芽細胞において一型コラーゲンの産生は正常化され、さらに胎児においては骨形成を促すことが分かった。さらにRUNX2とGlut1遺伝子のフィードフォワード制御によって、骨芽細胞の分化と骨形成が統合され生涯にわたって調和されることも明らかになった(図1)。

島津 絢子

 この研究で、骨芽細胞のグルコースの取り込みが、骨芽細胞の分化、骨形成及び全身のグルコースの恒常性にとって必要不可欠であることが明らかになり、骨と糖代謝の間のクロストークの存在の重要性がさらに示された結果となった。

著者コメント

 米コロンビア大学Gerard Karsenty先生のご指導の下、博士課程のテーマのひとつとして本研究に取組みました。努力の方向性を間違い、時間と努力の無駄遣いをしないようにと先生から厳しいご指導をいただいたことで、在学中に結果を出すことにつながったと感謝しています。また本研究論文は、コロンビア大学内の先生方のみならず、本研究室御出身の金沢大学の檜井先生、東京医科歯科大学の竹田先生をはじめとした、所属を超えたたくさんの方々のご協力から出来上がったものです。心より感謝申し上げます。また大学院入学当初からサポートをしていただいている本庄国際財団にも心よりお礼申し上げます。(コロンビア大学メディカルセンター・島津 絢子)