日本骨代謝学会

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フィブロネクチンとインテグリンβ1の相互作用は歯の分化に必須である

Interaction between Fibronectin and β1 Integrin is Essential for Tooth Development.
著者:Kan Saito, Emiko Fukumoto, Aya Yamada, Kenji Yuasa, Keigo Yoshizaki, Tsutomu Iwamoto, Masahiro Saito, Takashi Nakamura, Satoshi Fukumoto.
雑誌:PLoS One. 2015 Apr 1;10(4):e0121667. doi: 10.1371
  • インテグリン
  • コンディショナル欠損マウス
  • 石灰化

齋藤 幹

論文サマリー

 フィブロネクチンは細胞外マトリックスで細胞接着に関与しており、線維芽細胞等の間葉系細胞で発現するため、間葉系マーカーとしても用いられている。また、骨芽細胞・破骨細胞へ作用し、骨形成を誘導することから、臨床へと応用されつつある。

 我々は以前より、ディファレンシャルディスプレイ法を用いて歯の分化過程の各分化段階において特異的に発現する分子の検討を行っていた。その際、フィブロネクチンが間葉系のみならず、未分化期である分泌前期の歯原性上皮細胞に発現が認められ、その後、発現が消失するも成熟期で再び発現上昇している事を発見した。そこで、歯原性上皮細胞の接着に関与しているメカニズムを検討したところ、RGD配列を介してインテグリンβ1(Itgb1)と結合していることが判明した。Itgb1の欠損マウスは胎生致死のため、ケラチン14をプロモーターとした上皮特異的に発現を抑制したItgb1コンディショナルノックアウトマウス(Itgb1CKO)を作製し、前歯を観察したところ、歯が斑状に白濁していた。これは歯のエナメル質を作るエナメル芽細胞の細胞接着が低下し、規則的な細胞の配列が行われず、嚢胞化する事が原因と考えられた。また、臼歯では歯の萌出遅延が見られた。そこで当研究室で樹立した歯原性上皮細胞株であるSF2細胞にフィブロネクチンのsiRNAやRGDペプチドを加え、エナメル芽細胞マーカーであるアメロブラスチンの発現を検討したところ、フィブロネクチンの抑制やRGD結合の阻害により、アメロブラスチンの発現遅延が見られた。また、Itgb1CKOマウスより分離した歯原性上皮細胞におけるアメロブラスチン発現は野生型マウスよりも発現の遅延が見られた。これらの結果から、フィブロネクチン-RGD配列-Itgb1の一部を阻害することはエナメル芽細胞分化を遅延させることが判明した。細胞分化や増殖には様々な成長因子が関与していることが知られているが、適切な細胞外マトリックスの組み合わせも細胞分化や増殖に重要であることが示唆された。

著者コメント

 大学院時代より、細胞接着因子と硬組織の研究を行っていましたが、福本先生の移動に伴い、研究の方向性を模索しておりました。東北大学で再び一緒に研究できる様になり、今回、無事に出版できたことを非常に嬉しく思っています。また、この結果は様々な先生のご尽力によるもので、心から感謝しております。最近研究を行っていて感じることは、上皮と間葉の差です。器官の分化には上皮と間葉の相互作用が重要であり、また上皮間葉転換(EMT)の報告も多数あります。間葉系マーカーが上皮に発現し、上皮の分化や増殖に関与している分子はきっとフィブロネクチン以外にもたくさんあると思います。骨の発想を歯へ、歯の発想を骨へ、柔軟に考えて更なる発展を目指してがんばりたいと思います。(東北大学大学院歯学研究科 口腔保健発育学講座 小児発達歯科学分野・齋藤 幹)