日本骨代謝学会

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Angptl2はCXCR4シグナル経路を活性化し乳がんの骨転移を促進する

ANGPTL2 increases bone metastasis of breast cancer cells through enhancing CXCR4 signaling.
著者:Masuda T, Endo M, Yamamoto Y, Odagiri H, Kadomatsu T, Nakamura T, Tanoue H, Ito H, Yugami M, Miyata K, Morinaga J, Horiguchi H, Motokawa I, Terada K, Morioka MS, Manabe I, Iwase H, Mizuta H, Oike Y.
雑誌:Sci Rep. 2015 Mar 16;5:9170.
  • 骨転移
  • CXCR4
  • ANGPTL2

尾池 雄一

論文サマリー

 乳癌は、女性が罹患する癌のなかで最も多く、骨転移が生じやすいことが知られている。近年、アンジオポエチン様因子2(Angptl2)は癌転移促進因子として報告されているが、乳癌における詳細な転移促進機序についてはまだ十分に解明されていない。本研究では、ヒト乳癌細胞の骨転移におけるAngptl2の機能解明を目的とした。

 ヒト乳癌細胞株のAngptl2発現ノックダウン細胞株を作成し、免疫不全マウスの心腔内に移植したところ、骨転移が抑制された。また、Angptl2過剰発現細胞株では、コントロール細胞株と比較し、骨転移の促進が認められた。

 Angptl2遺伝子の発現抑制や過剰発現による癌細胞の形質の変化について解析をおこなったところ、乳癌細胞由来のAngptl2はETS1を誘導することにより、ケモカインレセプターであるCXCR4の発現を増強させた。CXCR4のリガンドであるCXCL12は骨やリンパ節など乳癌の好発転移組織に発現が多く、乳癌はリガンドへ誘導されることにより転移が促されるとされている。実際にAngptl2発現ノックダウン細胞株はCXCL12に対する遊走能が低下しており、Angptl2は乳癌細胞においてCXCR4の発現を増加させることにより、転移を促進していると考えられた。さらに、CXCL12-CXCR4によるシグナルが増強することにより、シグナルの下流にあるMMP-13の発現が増強し、乳癌細胞のⅠ型コラーゲンに対する浸潤能が増強した。これらの作用により骨転移後、乳癌細胞による骨破壊が促進されると考えられた。

 乳癌臨床サンプルにおいては、原発巣浸潤部のAngptl2の発現の程度とCXCR4とMMP-13の発現に相関を認めた。またAngptl2の発現の程度と乳癌のステージとの相関を認めた。さらにAngptl2発現と遠隔転移生存率とに正の相関を認めた。

 今回の研究により乳癌細胞より分泌されたAngptl2が骨転移に関与していることが明らかになった。また、骨転移後の骨破壊にも深く関与していることが明らかとなった。臨床サンプル解析の結果、Angptl2が転移予測因子となりうる可能性や、乳癌骨転移抑制に対する新たな治療標的となり得る可能性が示唆された。

尾池 雄一

著者コメント

 基礎研究に対する知識が皆無な状態で研究を始めることとなった私に、研究室の皆様から懇切丁寧に指導していただきました。整形外科医として臨床を行っていくなかで、乳癌骨転移症例の相談を受けても姑息的な治療をおこなうことしかできず、転移自体を抑制することが何よりの治療法であると痛切することも多くあります。この研究がいくばくかでも乳癌治療の確立に貢献できれば幸いに存じます。本研究を遂行するに当たり、数多くのご指導、ご鞭撻を受け賜りました尾池雄一教授、水田博志教授、岩瀬弘敬教授をはじめ共著の先生方および研究室の皆様に厚く御礼申し上げます。(熊本大学大学院生命科学研究部 分子遺伝学分野・尾池 雄一)