日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 波多 賢二

転写因子Foxc1はIhh-Gli2シグナルを促進し内軟骨性骨形成を制御する

The transcription factor Foxc1 is necessary for Ihh-Gli2-regulated endochondral ossification.
著者:Yoshida M, Hata K, Takashima R, Ono K, Nakamura E, Takahata Y, Murakami T, Iseki S, Takano-Yamamoto T, Nishimura R, Yoneda T.
雑誌:Nat Commun. 2015 Mar 26;6:6653. doi: 10.1038/ncomms7653
  • 内軟骨性骨形成
  • 軟骨細胞
  • Indian hedgehog

波多 賢二

論文サマリー

骨格形成の主体となる内軟骨性骨形成は、軟骨細胞分化過程において発現する様々な転写因子の相互作用が構築する転写ネットワークにより制御される。筆者らの研究グループは、転写因子Sox9を中心に、内軟骨性骨形成を制御する転写ネットワークの解明を行ってきたが、複雑かつ緻密に制御された内軟骨性骨形成においては、Sox9以外にも様々な転写因子が関与していることが推測される。本研究では、内軟骨性骨形成を制御する新規転写因子の同定とその役割の解析を行った。

II型コラーゲン遺伝子プロモーターの制御下にVenus遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスを作製し、胎生13.5日齢マウス肢芽からVenus陽性細胞および陰性細胞をFACSにより分離する実験系を構築した。このことにより、軟骨組織特有の生物学的特徴を保ったままの、生理的な軟骨細胞のみを分離することが可能となる。これら細胞をIn Vitroでの培養過程を経ることなくRNAを回収しMicroarray解析を行った。その結果、骨格形成異常を呈するAxenfeld-Rieger症候群の責任遺伝子であるFoxc1を、軟骨細胞に高発現する転写因子として同定した。ISH法による解析の結果、Foxc1は成長板軟骨の増殖層および肥大化層に発現していた。この発現パターンに一致して、Foxc1はPTHrPおよびCol10a1のFoxc1結合領域に直接結合し遺伝子発現を直接制御することが明らかとなった。興味深いことに、PTHrPおよびCol10a1ともに、軟骨細胞におけるIhh-Gli2シグナルの標的遺伝子である。そこで、Foxc1とIhhシグナルの相互作用について検討した結果、Foxc1はGli2と物理的に結合し、さらにGli2のDNA結合能を増強させることにより、軟骨細胞におけるIhh標的遺伝子の発現を促進していることが明らかとなった。

Foxc1遺伝子自然発症変異マウス(Foxc1ch/chマウス)は四肢の短縮、アルシアンブルー染色性の低下が認められた。さらに、Foxc1ch/chマウスの胸骨ではCol10陽性の肥大化軟骨細胞が検出されず、石灰化も完全に消失していた(図参照)。

波多 賢二

Foxc1ch/chマウス由来初代培養軟骨細胞では、野生型マウス由来軟骨細胞に比較してIhh標的遺伝子の発現が低下し、Gli2のDNA結合能も減弱していることが明らかとなった。

Axenfeld-Rieger症候群の原因となるヒトFOXC1遺伝子変異の一つに、112番目のフェニルアラニンがセリンに変異したF112S変異体が報告されている。そこで、Axenfeld-Rieger症候群の発症に、Foxc1とGli2の機能的相互作用が関与するか否かを検討した。その結果、F112S変異体はDNA結合能を保持するがGli2との結合能を有さないため、Ihh/Gli2シグナルとFoxc1の機能的相互作用が減弱していることが明らかとなった。

以上の結果より、転写因子Foxc1は軟骨細胞におけるIhh/Gli2シグナルを促進することにより内軟骨性骨形成を制御すること、さらにFoxc1遺伝子異常によるIhh-Gli2シグナルとの相互作用の破綻は、Axenfeld-Rieger症候群でみられる骨格形成異常の原因の一つとなっている可能性が考えられた。

著者コメント

 軟骨組織は軟骨細胞の高密度凝集、豊富なECMの存在さらには無血管の組織であるなど非常にユニークな生物学的特徴を有する組織です。本研究は、軟骨細胞株や初代培養軟骨細胞などの培養細胞ではなく、生体内の軟骨細胞そのものを用いて遺伝子クローニングを行いたいと考え、FACSを用いて軟骨細胞を直接分離する実験系を構築しました。当初はCol2a1遺伝子の発現制御に関与する転写因子の同定を目的としていたので、Foxc1がCol2a1の発現を促進しないという結果に落胆していましたが、大学院生の吉田倫子さんの頑張りで、Foxc1がIhh-Gli2シグナルを制御することを見出すことができました。そして、東京医科歯科大学 井関祥子先生、東北大学歯学研究科 山本照子先生、私が所属します大阪大学歯学研究科生化学教室 西村 理行先生、インディアナ大学の米田俊之先生の四名(!)の教授の先生による強力なサポートと教室員の協力によって、論文として完成することができました。本研究の遂行にあたり多大なご協力を賜りました、共著の先生方および研究室員の皆様に厚く御礼申し上げます。(大阪大学歯学研究科生化学教室・波多 賢二)