日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 宮田 康平

筋芽細胞の骨格筋分化におけるDNAメチル化プロファイルの解析:筋関連遺伝子のプロモーターのDNAメチル化獲得と発現低下

DNA methylation analysis of human myoblasts during in vitro myogenic differentiation: de novo methylation of promoters of muscle-related genes and its involvement in transcriptional down-regulation.
著者:Kohei Miyata, Tomoko Miyata, Kazuhiko Nakabayashi, Kohji Okamura, Masashi Naito, Tomoko Kawai, Shuji Takada, Kiyoko Kato, Shingo Miyamoto, Kenichiro Hata and Hiroshi Asahara
雑誌:Human Molecular Genetics. 2015, 24(2):410-423.
  • 骨格筋分化
  • DNAメチル化
  • マイクロアレイ解析

宮田 康平
宮田(左)と浅原先生(右)

論文サマリー

 近年個体発生や発達において単一受精卵から異なる特徴を持った細胞・組織へと分化する過程ではエピジェネティックな遺伝子制御が大いに関連していると考えられています。中でもDNAメチル化については、長期エピゲノム記憶において中心的な役割をもつと考えられていますが、どのような場所に、どのようなタイミングで、どのような分子機序起こっているのか、その時間的空間的変化と分子機序の多くは明らかではありません。

 我々はHuman Methylation 450k Bead Chipを用いて、ヒト筋芽細胞の分化におけるDNAメチル化部位を段階的に解析しました。低血清培地を用いる方法で骨格筋分化を誘導するモデルを使用し(図1)、取得したゲノム全体のDNAメチル化プロファイルを解析しました。

宮田 康平

骨格筋分化においてはDNAメチル化獲得がゲノム全体に起こっており、さらに分化の継時的変化に沿ってDNAメチル化を段階的に獲得していました(図2)。

宮田 康平

この時に、新たにDNAメチル化を獲得した遺伝子座について遺伝子オントロジー解析を行うと、DNAメチル化獲得が起こっている領域の近傍には骨格筋分化・発達に関連する遺伝子が多いことが同定されました(図3)。

宮田 康平

分化の段階と筋関連遺伝子座のDNAメチル化獲得の相関は特に転写開始点近傍で顕著であり、転写開始点近傍のDNAメチル化変化は遺伝子発現とも相関していました。また、DNAメチル化変化が起こった領域の配列を解析したところ(モチーフ検索)、骨格筋分化において重要な転写因子であるIDファミリーの結合配列やRp58の結合配列が挙げられました(図4)。

宮田 康平

 本研究は骨格筋分化の過程で遺伝子発現に“ブレーキ”をかける転写抑制因子Rp58の遺伝子制御機構にDNAメチル化獲得が関与していることをヒトの細胞で示した初めての報告です。この結果から、DNAのメチル化獲得は骨格筋分化において重要な役割を行っている遺伝子に有意に起こることが証明され、分化過程において必要な遺伝子の発現を抑制する機構にDNAメチル化獲得が関わっていることが示唆されました。

 当研究室では、過去に骨格筋分化において転写抑制因子Rp58が重要な役割を持つことを証明している。Rp58はDNAメチルトランスフェラーゼと結合していることがわかっており、本研究の結果と併せて、DNAメチル化獲得とRp58は密接な関係が示唆される。これらの結果を基盤として、未だ不明な点が多いDNAメチル化獲得の分子機序を解明することを目指しています。

著者コメント

 本研究は東京医科歯科大学のシステム発生・再生医学研究部の浅原弘嗣先生に統括していただき、国立成育医療研究センター研究所の周産期病態研究部の中林一彦先生の惜しみないご指導のもと完成に至りました。産婦人科医である私共夫婦にはやや畑違いは否めませんが、細胞や組織の発生・分化の研究の奥深さを味わうことができた研究です。
 研究の遂行・論文執筆するにあたり、共著者の皆様には多大なご指導、ご協力をいただきました。この場をお借りして深謝申し上げます。(福岡大学医学部産婦人科学講座・宮田 康平)