日本骨代謝学会

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骨細胞でのミトコンドリア酸化ストレスは骨細管ネットワーク障害と骨量減少を示す

Mitochondrial superoxide in osteocyte perturbs canalicular networks in the setting of age-related osteoporosis.
著者:Keiji Kobayashi, Hidetoshi Nojiri, Yoshitomo Saita, Daichi Morikawa, Yusuke Ozawa, Kenji Watanabe, Masato Koike, Yoshinori Asou, Takuji Shirasawa, Koutaro Yokote, Kazuo Kaneko, and Takahiko Shimizu
雑誌:Scientific Reports, 5, 9148, (2015).
  • 骨細胞
  • 酸化ストレス
  • SOD2

小林 慶司・清水 孝彦
(左から)野尻 英俊、小林 慶司・清水 孝彦、清水 孝彦

論文サマリー

 骨量は生後から成長期に急速に増加し20~30歳代でピークを迎えるが、その後加齢とともに減少する。一方、活性酸素による酸化ストレスが、加齢性退行変化の原因であるという「活性酸素説(フリーラジカル説)」が提唱され、加齢性退行変化の最も有力な説として支持されている。活性酸素はミトコンドリア代謝などの副産物として産生され、タンパク質、核酸、脂質といった生体物質を酸化することで機能不全を起こす結果、細胞障害を発生させる。しかし、ミトコンドリア酸化ストレスの骨代謝に与える影響は不明な点が多く、解明すべき課題は多い。本研究では、骨の主要な細胞であり、細胞寿命が長い骨細胞の老化に着目した。骨細胞の人為的なミトコンドリア酸化・還元バランス破綻(酸化ストレス状態)が、実際に骨老化を誘導するかどうかを実証するために、骨細胞特異的遺伝子欠損技術を用いて解析を行った。

 ミトコンドリアの酸化・還元バランス維持に重要な働きを持つ、抗酸化酵素SOD2をCre-loxpシステムで、骨細胞特異的に欠失させた。骨細胞特異的SOD2欠損マウスは、加齢依存的に、海綿骨と皮質骨の骨量、および骨密度の顕著な低下を示した。また骨細胞特異的SOD2欠損マウス骨では、骨細胞の消失した空の骨細胞腔の増加に加え、骨細管構造の不整が認められ(写真)、一骨細胞当たりの骨細管数が22本から16本に減少していた。この減少は、2年齢の老齢マウス骨での減少と一致しており、マウス加齢骨での骨細胞の加齢性形態変化を再現していた。さらに興味深い事に、欠損マウスの骨細胞の形態は、ヒト加齢骨の骨細胞構造とも酷似しており、一骨細胞当たりの骨細管数は成人では約22本であるが、高齢者の骨細胞では、約16本に減少する数値と一致していた。また骨細胞特異的SOD2欠損マウス骨は、骨形成低下と骨吸収亢進という骨代謝異常を認めた。特筆すべきは、骨細胞が分泌するオステオカインの代表分子である骨形成抑制因子Sclerostinと骨吸収促進因子 RANKLの発現がいずれも顕著に増加していた。

小林 慶司・清水 孝彦
5ヶ月齢の野生型マウス大腿骨皮質切片の鍍銀染色像

小林 慶司・清水 孝彦
5ヶ月齢の欠損マウス大腿骨皮質切片の鍍銀染色像

 以上の結果から、骨細胞特異的Sod2欠損マウスは、骨細胞でのミトコンドリ酸化・還元バランスの破綻によって骨細管構造が不良となり骨細胞間のネットワークが障害されていた。加齢骨を再現する本モデルマウスは、人の骨老化を解析する重要なモデルとなりうると考えている。(千葉大学大学院医学研究院・清水 孝彦)

筆頭著者コメント

 今回の研究成果は、多くの協力者のおかげで得ることができました。整形外科医として何か多くの人に役立つような研究がしたいという思いでこの研究をスタートしました。酸化ストレスが様々な加齢性疾患を引き起こす要因となっていることは知られていましたが、骨組織においてはその分野の研究は進んでいませんでした。骨細胞という骨組織に埋め込まれている細胞をターゲットとした研究でしたので、扱いや評価が難しくその点では非常に苦労しましたが、結果として骨細胞におけるミトコンドリア酸化ストレスが加齢性に引き起こされる骨量低下の一端を担うという非常に面白い知見が得られたのではないかと思っています。この分野は、まだまだ新しい知見が得られるのではないかとも期待しています。最後になりましたが、このような研究の場を与えて頂いた順天堂大学医学部整形外科・金子 和夫教授、同・野尻 英俊准教授、および千葉大学大学院医学研究院・清水 孝彦准教授に、心から感謝申し上げます。(順天堂大学医学部整形外科・小林 慶司)