日本骨代謝学会

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ステロイド性骨粗鬆症は重症筋無力症患者のQOLを著しく低下させる

  • 重症筋無力症
  • ステロイド性骨粗鬆症
  • QOL

鈴木 重明
筆頭著者の紺野晋吾先生(東邦大学大橋病院神経内科、写真左)と責任著者の鈴木重明(慶應義塾大学医学部神経内科、写真右)。

論文サマリー

 重症筋無力症(MG)は神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体あるいは筋特異的チロシンキナーゼに対する自己抗体が原因となる自己免疫疾患であり、最も頻度の高い神経免疫疾患(日本全国で推定25000人の患者数)である。本研究は慶應義塾大学、東邦大学(大橋病院)、東京医科大学、札幌医科大学、飯塚病院、総合花巻病院が参加した多施設共同の横断研究である。2012年4月から7月に受診したMG患者363例 (M:F = 116:247、平均年齢56.5歳)を対象とした。MGの重症度はquantitative MG (QMG) scoreで評価し、疾患特異的な患者QOLは質問紙によるMG-QOL15を用いた。骨密度はDual-energy-X-ray absorption法を用いて腰椎(L2-L4)と大腿骨頚部で測定した。また血清骨型アルカリホスファターゼ、血清Ⅰ型コラーゲン架橋N−テロペプチド(NTX)を測定した。

 MG 363例中、283例 (78%)でPSL ≥ 5 mg/dayかつ3か月以上の治療歴があった。MG経過中に生じた有症状の骨折は19例 (5%)で認められ、うち18例はステロイド治療歴を有していた。ステロイド治療歴を有するMG患者を骨折群 (n = 18)と非骨折群 (n = 265)の2群に分け臨床像の比較を行った。骨折群では、非骨折群と比べて、MG罹病期間が長い、MGが重症(QMG scoreが高い)、ステロイド治療期間が長い、骨密度(大腿頚部)が低い、血清NTX高値などの特徴を有していた。多変量解析の結果ではQMG Scoreが最も関連の強い因子であり、症状の重いMGがステロイド性骨粗鬆による骨折と深く関連していた。

 全患者を対象に骨折の有無でQOLを比較した(図1)。骨折群では非骨折群に比べて、患者QOLが著しく障害されていた。またFARXによる骨粗鬆症性骨折危険率は60歳代女性MGにおける10年間の骨折リスクは12%以上と高値であった。近年、高齢発症MGが増加傾向にあることから注目すべき結果である。

鈴木 重明
骨折の有無による患者QOLの比較。骨折群 (n = 19)では非骨折群 (n = 344)に比べて患者QOLは著しく低下していた (p = 0.009)。MG-QOL15の点数が高いほど患者さんはQOL低下を感じている。

 MG患者の生命予後は著しく改善し人工呼吸が必要なクリーゼの状態に陥った場合でも死亡率はほぼゼロである。経口ステロイドが治療の中心で、長期間の服用が必要なため、副作用対策はMG管理において極めて重要である。本研究では無症候のあるいは診断されていない骨折は含まれていないため、MG患者の骨折頻度を過小評価している可能性がある。MGでは筋力低下や眼症状による視界の低下も転倒の原因になる。ステロイド性骨粗鬆症による骨折がMG患者QOLに大きな影響を与えている点を考慮に入れ、MGの治療戦略を立てることが必要である。

著者コメント

 ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドラインだけではなく、MG診療ガイドラインも2014年に改訂されました。MG治療では他の免疫療法を併用しステロイドの投与量を極力減らすことが推奨されているものの、依然として大量のステロイド治療が行われているのが現状です。MGがよくなってもステロイドの副作用に苦しむ患者さんはたくさんおり、その中でも骨粗鬆症は最も重要な問題です。
 これまでに MGでは骨粗鬆症性骨折の有意な上昇はない(英国)と頻度が高い(台湾)との相反する研究結果が存在します。いずれもデータベースによる統計研究であり、MGと骨粗鬆症に関する臨床的な解析は不充分です。本論文では患者QOLまで踏み込み、多数例のMGを対象に詳細な臨床データを解析できた点が大きな成果です。神経疾患や筋疾患では転倒のリスクが高く、骨粗鬆症への対策は神経内科領域でも注目すべき課題と考えます(慶應義塾大学医学部神経内科・鈴木 重明 http://www.keio-med.jp/neurology/nig/index.html