日本骨代謝学会

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C型レクチン受容体DCIRはT細胞からのIFN-γ産生を制御することで骨の恒常性を維持する

DCIR Maintains Bone Homeostasis by Regulating IFN-γ Production in T Cells.
著者:Maruhashi T*, Kaifu T*, Yabe R, Seno A, Chung SH, Fujikado N, Iwakura Y
*は筆頭共著者
雑誌:J Immunol. 2015 Apr 29. pii: 1500273.
  • DCIR
  • IFN-γ
  • 骨形成

丸橋 拓海・海部 知則
左から:岩倉、海部、丸橋

論文サマリー

 樹状細胞免疫受容体DCIRは細胞内に抑制性シグナル伝達モチーフITIMを持つC型レクチン受容体で、主に抗原提示細胞である樹状細胞(DC)に発現している。我々はこれまでにDCIR欠損マウスの作製および解析を行っており、DCの過剰な増殖とそれに伴うT細胞の活性化が認められること、加齢に伴って唾液腺炎や腱付着部炎といった自己免疫疾患を自然発症することを見出している(Fujikado et al., Nat. Med., 2008)。これら免疫系の異常に加え、加齢DCIR欠損マウスの末梢関節および脊椎関節において軟骨細胞増殖や異所性骨化を伴う関節強直が認められた(図1)。本研究では、DCIR欠損マウスにおける骨疾患発症機構の解明を試みた。

丸橋 拓海・海部 知則

 まず、若年齢DCIR欠損マウスの頸骨、大腿骨について各種骨検査を行うことで、全身性の骨代謝を検討した。その結果、骨芽細胞/破骨細胞数の増加、骨量の増加、石灰化速度の亢進が認められ、骨代謝バランスが骨新生に傾いていることが明らかとなった。さらに、腱付着部炎のみならず、関節強直、骨量増加といった骨疾患が、T、B細胞の存在しないRAG2欠損マウスとの掛け合わせによって完全に消失したことから、DCIR欠損マウスにおける骨代謝異常には免疫系が関与していることが分かった。次に、詳細な免疫学的解析を行ったところ、DCIR欠損DCはT細胞支持能に異常をきたしており、結果としてDCIR欠損マウスのリンパ節、末梢血中および関節局所においてIFN-γ産生性T細胞の増加が認められた。そこで、IFN-γの病態発症への関与を検討するためにDCIRとIFN-γの二重欠損マウスを作製したところ、関節強直、骨量増加が全く認められなくなった(図2)。

丸橋 拓海・海部 知則

 さらに、IFN-γはin vitro初代培養系において骨芽細胞および軟骨細胞の分化、増殖、基質産生を促進したことから、IFN-γが異常な骨新生を直接的に誘導していることが示唆された。以上の結果から、DCに発現するDCIRがT細胞による過剰なIFN-γ産生を抑制することで、生理的・病理的条件下における骨の恒常性を維持していることが示された(図3)。

丸橋 拓海・海部 知則

 近年、「骨免疫学」と称される新たな学術分野の発展によって、免疫系による骨代謝制御の重要性が認められてきた。実際に、関節リウマチの特徴的な病態である炎症性骨破壊について、病態形成機構の理解が飛躍的に進み、効果的な治療法の開発がなされた。一方で、強直性脊椎炎などの骨新生を伴う炎症性疾患に対する病態理解はほとんど進んでいない。本研究の成果は、免疫系による骨新生制御機構の一端を明らかにしたものであり、新規治療法開発への貢献が期待される。

著者コメント

現在こそ免疫学を専門としていますが、学部、修士課程の頃は東京工業大学の工藤明教授の御指導のもと骨代謝研究に携わっており、日本骨代謝学会は初めて参加した学会でもあります。博士課程に進学するにあたり、免疫学を学ぼうと岩倉洋一郎教授(当時:東京大学 医科学研究所)の研究室に参加させて頂いたのですが、こうして再び骨代謝研究に関わることとなり、不思議な気分でした。しかし、本研究を通して免疫学と骨代謝学の密接な関係とその重要性を直に学んだ今となっては、免疫の研究者が骨代謝の実験を行うことに何の違和感も感じなくなりました。今後も分野にとらわれず、好奇心に逆らわず、研究に励みたいと思っています。(東京理科大学 生命医科学研究所 実験動物学研究部門・丸橋 拓海・海部 知則)