
関節軟骨の再生を強力に誘導するステロイドホルモンを発見
著者: | Hara ES, Ono M, Hai PT, Sonoyama W, Kubota S, Takigawa M, Matsumoto T, Young MF, Olsen BR, Kuboki T. |
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雑誌: | J Bone Miner Res. 2015 Mar 7. doi: 10.1002/jbmr.2502. |
- 軟骨分化
- ドラッグ・リポジショニング
- fluocinolone acetonide
論文サマリー
創薬の開発,臨床応用には膨大な時間と労力,お金を要することから,近年,既存医薬品の新しい薬理作用を発見し,新たな治療薬として応用する,ドラッグ・リポジショニングが脚光を集め始めている.我々はこのドラッグ・リポジショニングの概念に注目し,米国FDA承認の640種類の薬剤の中から,軟骨細胞分化促進能を有する薬剤を網羅的に探索,グルココルチコイドの一つであるフルオシノロンアセトニド(Fluocinolone acetonide:FA)を最も軟骨細胞分化を誘導する薬剤として同定した.
実際,in vitroにおいてFAは,骨髄由来間葉系幹細胞を軟骨細胞に分化させる誘導因子として知られるTGF-β3と同時に刺激することで,軟骨基質合成を著明に促進することが明らかとなった.その効果は,軟骨細胞分化誘導因子として用いられているデキサメタゾン(DEX)より明らかに優れた効果を有していた.また,FAおよびTGF-β3にて刺激したhBMSCsを免疫不全マウスの膝関節に形成した軟骨全層欠損に移植した結果, II型コラーゲン陽性の軟骨組織が再生されている像が確認された.一方,TGF-β3単独刺激群,DEX/TGF-β3,TA/ TGF-β3刺激群では,軟骨再生は認められなかった(図).
また,FAの作用機序を分子レベルで詳細に検討した結果,FAはグルココルチコイド受容体(GR)を活性化し,核内移行を促進することで,軟骨細胞分化を正に制御していることが明らかとなった.一方,DEXにも同様の作用が認められたが,その効果はFAと比較し,顕著に低かった.FAはすでに人に使用されている薬剤で臨床応用への障壁も低く,変形性関節症などの関節疾患の細胞移植治療の治療成績の向上,適応症の拡大に繋がるものと大いに期待している.
著者コメント
ドラッグ・リポジショニングに興味をもち,本研究を大学院生時代にスタートし,幸運にもグルココルチコイドの一つであるFAに軟骨分化促進作用があることを発見しましたが,メカニズム解明に思った以上に時間を費やし,大学院を卒業する時期になっても研究が完結しませんでした.しかし,大学院時代の恩師である窪木拓男教授,現在の上司である松本卓也教授のご理解,温かいご指導のもと,大学院卒業後もFAの軟骨細胞分化制御メカニズムの解明を目標に,本研究に没頭することができ,大変有意義な時間を過ごすことが出来ました.この場をお借りし,様々な面でサポートしてくださった先生方に心から感謝申し上げます.今後は多面的な視点から研究に取り組み,軟骨分化の謎を解き明かしていきたいと考えています.(岡山大学・ハラ・エミリオ)