
セマフォリン4Dは炎症性サイトカインを誘導し、関節リウマチの増悪に関与する
著者: | Yoshida et al. |
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雑誌: | Arthritis Rheumatol. 2015 Jun;67(6):1481-90. doi: 10.1002/art.39086. |
- 関節リウマチ
- セマフォリン
- サイトカイン
論文サマリー
セマフォリンは、8つのクラス、20以上の蛋白からなるファミリー蛋白であり、当初は発生段階において神経の伸長方向を制御する因子として同定されたが、後に、血管新生、骨代謝、免疫制御など多様な働きをすることが明らかになった。セマフォリンの中でも特に免疫系に強い活性を持つ、セマフォリン4D(Sema4D)やセマフォリン4Aといった免疫セマフォリンと呼ばれる分子群が存在することを当研究室が世界に先駆けて明らかにしていった。しかしながら、これまでセマフォリンと免疫異常に起因する疾患であるリウマチ性疾患との関係についてはほとんど明らかになっていなかった。IL-6、TNFα誘導作用を持ち、しかも近年骨形成抑制作用が報告されているセマフォリン4D(Sema4D)が、その作用機序より、関節リウマチの増悪因子となりうるのではないかとの仮説の元、研究を行った。臨床検体を用いた検討によって、関節リウマチ患者の血清、関節液において可溶型Sema4Dの上昇が見られること、血清可溶型Sema4D値は、関節リウマチ患者において、DAS28, CRP, RF, 尿中デオキシピリジンとの有意な相関を認め、疾患活動性と相関することが明らかになった。次に、可溶型Sema4Dの機能および産生メカニズムについて研究を行った。その結果、Sema4Dは関節リウマチ患者由来のCD14陽性単核球に反応し、IL-6、TNF-αの産生を関節リウマチにおける血清濃度で十分に誘導可能であること。2.Sema4Dは、関節リウマチにおいて関節破壊に関与する酵素であるADAMTS4によって可溶型となり分泌されること。3. 滑膜におけるADAMTS4産生は、IL-6, TNF-αによって誘導されることが明らかとなった。これらのことから、可溶型Sema4D / IL-6, TNF-α/ADAMTS4はポジティブフィードバックループを形成し、関節炎の慢性化に寄与している可能性があることが示された。
また、マウスのコラーゲン誘発関節炎にセマフォリン4D阻害抗体投与すると、関節炎発症後においても関節炎を強く抑制することができた。以上より、臨床検体において、可溶型Sema4Dは関節リウマチで上昇し、疾患活動性と相関すること、マウスの関節炎モデルの実験からSema4D抗体が関節リウマチの治療ターゲットとなりうることが示された。
著者コメント
私は、熊ノ郷先生が臨床の教室に戻られて最初の大学院生であったため、これまで熊ノ郷教授が明らかにしてきた免疫セマフォリン基礎的な知見と疾患とを結びつけた研究を行いたいと考え、今回の実験を行いました。今回の実験は、血清や関節液、滑膜など臨床検体を多く用いて実験を行っています。これは、患者さんのご理解、臨床医師の協力なしでは決して成し遂げられなかったものであり、この経験を通じて、今後は今まで以上に、臨床現場に恩返しできるような研究を行わなければならないとの思いを強くしました。最後に、この場をかりてこの研究に関係して頂いた全ての方々及び、粘り強くご指導頂いた、緒方先生、熊ノ郷教授に厚く御礼申し上げたいと思います。(大阪大学呼吸器免疫内科・吉田 祐志)