日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 杉田 守礼

転写因子Hes1はカルモジュリンキナーゼ2と共同して変形性関節症の発症を制御する

Transcription factor Hes1 modulates osteoarthritis development in cooperation with calcium/calmodulindependent protein kinase 2
著者:Sugita et al.
雑誌:PNAS. 2015 Mar 10; 112(10):3080-5
  • Notchシグナル
  • Hes1
  • 変形性関節症

杉田 守礼

論文サマリー

我々は以前Notchシグナルが変形性関節症を強く制御することを報告した。今回我々はそのシグナルの下流に存在する転写因子Hes1に着目した。軟骨前駆細胞特異的にHes1をノックアウトしたマウスは骨格発達に大きな異常を示さなかったものの、成長後に軟骨細胞特異的にHes1をノックアウトしたマウスは外科的変形性関節症誘発モデルにおいて有意に変形性関節症の発症が抑制されていた(図1)。続いて、そのメカニズムを解明するために軟骨細胞においてHes1を過剰発現させたところ、軟骨基質分解酵素であるAdamts5やMmp13が誘導されることが判明した。ChIPシークエンス法ならびにルシフェラーゼアッセイを用いたプロモータ解析を行うと両者の酵素の遺伝子のイントロン領域に応答配列があることが示された。ChIPシークエンス法とマイクロアレイを用いた網羅的解析の結果を総合すると、上記の軟骨基質分解酵素のみならず、炎症性分子であるIL-6やIL-33の受容体であるIL1RL1などもHes1により誘導されることが解明された。
通常転写抑制因子として働くHes1が今回の結果では転写促進因子として働いているメカニズムを解明するにあたり、転写共因子であるカルモジュリンキナーゼ2δ(以下CaMK2d)に着目した。Hes1とCaMK2dを軟骨細胞において両者強制発現させると、MMP13、ADAMTS5、IL6、IL1RL1が強く誘導されることが判明した。一方、Hes1のCaMK2dによるリン酸化部位を変異させると、これらの軟骨分解酵素や炎症性分子の誘導効果が見られなくなることも同時に判明した。
上記の結果により、Hes1はCaMK2dと共同して軟骨細胞において軟骨分解酵素や炎症性分子を誘導し、変形性関節症の発症を制御しているとの結論を得た。

杉田 守礼

著者コメント

分子生物学的な知識がほぼゼロの状態から始まった大学院の4年間をほぼこのHes1の研究に費やしました。このような形で研究成果が世にでることに非常に喜びを感じています。私一人では到底なし得なかったこの研究が結実したのは、ひとえに東京大学整形外科の研究室全体の力によるものであると考えています。キナーゼであるCamk2dはその阻害薬も複数存在するため、これらの結果が将来的には変形性関節症の予防や治療につながっていくことを期待しています。(東京大学整形外科・杉田 守礼)