日本骨代謝学会

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増強されたTLR-MYD88シグナルがSH3BP2 チェルビズム・マウスの自己炎症反応を活性化しその病因を決定付ける。

Enhanced TLR-MYD88 signaling stimulates autoinflammation in SH3BP2 cherubism mice and defines the etiology of cherubism.
著者:Yoshitaka T, Mukai T, Kittaka M, Alford LM, Masrani S, Ishida S, Yamaguchi K, Yamada M, Mizuno N, Olsen BR, Reichenberger EJ, Ueki Y
雑誌:Cell Reports. 2014;8(6):1752-66.
  • チェルビズム
  • SH3BP2
  • マクロファージ
  • TNF
  • 自己炎症性骨破壊

吉鷹 輝仁
現在は、カンザスシティでの5年間の研究生活後、2014年8月に帰国し整形外科医として勤務しています。
ラボ写真の左端が筆者の吉鷹輝仁。

論文サマリー

 チェルビズム(Cherubism, OMIM#118400)は非常にまれな遺伝性疾患で、歯周組織への破骨細胞様の巨細胞と炎症細胞の浸潤による歯槽骨・顎骨の破壊を特徴とする。病変が思春期以降に退縮する事も特徴である。疾患の希少性もあり、これまでに確立された根本治療は無く、外科的矯正を含む対症療法が行われて来た。我々は本疾患がSH3-domain binding protein 2 (SH3BP2) 遺伝子の点突然変異によって生じること発見し(1)、ヒトと同一部位の変異を導入したcherubismノックイン(KI/KI)モデルマウスが、顎領域だけでなく全身の骨関節破壊と多臓器での炎症を呈する事、組織的にはマクロファージや破骨細胞などmyeloid系の細胞の活性化と過剰増殖を示すことを報告した(2)。その過程にマクロファージの産生するTNF-αが重要な役割を果たしていることも判明したが(2)、なぜ顎に特異的なのか?どうして思春期以降に退縮が起るのか?詳細な発症メカニズムは不明のままであった。

 本研究において我々はこのモデルマウスを用いて、TNF-αの過剰産生を引き起こす分子メカニズムの解明を試みた。着目したのは、口腔内が常時微生物負荷にさらされている、ということであり“細菌感染が本疾患の病態に深く関与している”という仮説を立てた。中でも微生物の認識に深く関わり、サイトカイン産生など免疫応答に重要な役割を果たすToll-like receptors (TLRs)及びその下流の Myeloid differentiation factor-88 (MYD88)系に着目した。TLRsの中で、グラム陽性菌や陰性菌を広く認識するTLR2やTLR4、或いはMYD88を遺伝的に欠損・機能喪失させたKI/KIマウスを作製したところ、全身の炎症や骨破壊が抑制され、血中TNF-αのレベルも顕著に低下し、これらの系が病態形成に必須であることが示された。さらに仮説を検証するために無菌下でcherubismマウスを作製したが、驚くことに無菌飼育下においてもcherubismマウスの症状が観察された。

吉鷹 輝仁
MYD88の欠失でレスキューされた眼瞼腫脹(右)。

 近年、TLRs/MYD88系を刺激するものとして、微生物由来のリガンド(総称してPAMPs)以外に、生体内で生じた壊死細胞や変性した細胞外マトリックス成分(総称してDAMPs)が注目されつつある。様々なDAMPsで骨髄由来のKI/KIマクロファージを刺激したところ、一部でKI/KI優位なTNF-αの産生亢進がみられた。また、このTNF-α過剰産生にはtyrosine kinaseであるSYKがSH3BP2をリン酸化することが必要であることがin vitro、in vivoの実験により証明された。これらのことより、cherubismの骨炎症性病態にはTLRs/MYD88系の過剰反応が深く関与しており、PAMPsだけでなくDAMPsが引き金/増悪因子となっていること、SYKによるSH3BP2のリン酸化がもう一つの規定因子となっていると結論付けた。顎に特異的な骨破壊は口腔内のバクテリア負荷(PAMPs)や歯の発生/咀嚼に伴う組織破壊で生じたTLRリガンド(DAMPs)が原因であると考えられた。思春期以降の病変の退縮には顎リモデリングの完成によるDAMPsの減少やTLRs/MYD88に依存しない免疫系の発達が関与していると推測した。

吉鷹 輝仁
概略図

著者コメント

本疾患のような希少な疾患は実際に患者さんが存在するにも関らず研究者の興味を引くことが少なく、病態研究や治療法の探索といった医学進歩から取り残されがちだと思います。その中で、本研究に携わり本質に近いと思われる病態メカニズムを解明できたこと、同時期に行った治療に関する研究で、TNF-α阻害剤(3)や骨髄移植(4)による治療効果を見出すことができたことは、ささやかな医学貢献ができたと自分の中での誇りになったと共に、研究を支えてくださった植木先生とラボの同僚に深く感謝しております。本研究での知見が、類似した病態を示す関節リウマチ等の自己免疫疾患の研究にも活かされてくれればと期待しています。(ミズーリ大学カンザスシティ校 歯学部 Bone Biology Group・吉鷹 輝仁)

参考文献
1. Ueki Y, Tiziani V, Santanna C, Fukai N, Maulik C, Garfinkle J, Ninomiya C, doAmaral C, Peters H, Habal M, Rhee-Morris L, Doss JB, Kreiborg S, Olsen BR, Reichenberger E Mutations in the gene encoding c-Abl-binding protein SH3BP2 cause cherubism. Nat Genet. 2001;28(2):125-6.
2. Ueki Y, Lin CY, Senoo M, Ebihara T, Agata N, Onji M, Saheki Y, Kawai T, Mukherjee PM, Reichenberger E, Olsen BR Increased myeloid cell responses to M-CSF and RANKL cause bone loss and inflammation in SH3BP2 "cherubism" mice. Cell. 2007;128(1):71-83.
3. Yoshitaka T, Ishida S, Mukai T, Kittaka M, Reichenberger EJ, Ueki Y Etanercept administration to neonatal SH3BP2 knock-in cherubism mice prevents TNF-α-induced inflammation and bone loss. J Bone Miner Res. 2014;29(5):1170-1182.
4. Yoshitaka T, Kittaka M, Ishida S, Mizuno N, Mukai T, Ueki Y Bone marrow transplantation improves autoinflammation and inflammatory bone loss in SH3BP2 knock-in cherubism mice. Bone. 2015;71:201-9.