日本骨代謝学会

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骨芽細胞におけるmeninの骨量制御機構

Osteoblast Menin Regulates Bone Mass In Vivo
著者:Kanazawa I, Canaff L, Abi Rafeh J, Angrula A, Li J, Riddle RC, Boraschi-Diaz I, Komorova SV, Clemens TL, Murshed M, Hendy GN
雑誌:J Biol Chem, 2015 Feb 13; 290(7):3910-24
  • Menin
  • TGF-β
  • BMP-2

金沢 一平

論文サマリー

多発性内分泌腺腫症1型は癌抑制遺伝子であるMen1の遺伝子変異により引き起こされる。Men1遺伝子がコードするタンパクmeninはTGF-βファミリーの作用を調節していることが知られている。これまでにmeninはBMP-2とTGF-βが制御する骨芽細胞分化に重要な因子であることがin vitroの研究で明らかになっている。本研究では、osteocalcin-Creマウスを用いた骨芽細胞特異的Men1欠損マウス(Men1osb-/-)と2.3-kb Col1a1プロモーターを用いた骨芽細胞特異的menin過剰発現マウス(Men1osbTG/+)を用いて、骨芽細胞におけるmeninの重要性を検討した。Men1osb-/-マウスでは骨密度、海綿骨量、皮質骨幅が有意に低下していた。骨芽細胞数と破骨細胞数の有意な減少が認められたが、骨細胞数は有意に増加していた。Men1osb-/-マウスより単離した骨芽細胞培養において、細胞増殖抑制因子であるcyclin-dependent kinase (CDK) inhibitors (p15、p18、p21、p27)の発現はいずれも有意に低下し、CDK2、CDK4の発現と細胞増殖は増強していた。一方、BMP-2とその下流因子であるRunx2、Osx、Dlx5、type 1 collagen、osteocalcinの発現は有意に低下し、石灰化能も著明な低下を認めた(von Kossa染色、Alizarin red染色)。破骨細胞誘導因子RANKLの発現は著明に低下していた。また、骨細胞マーカーであるsclerostin、Phex、DMP1の発現は有意に上昇しており、さらにアポトーシス誘導因子であるBAD、Bcl-2の発現とカスパーゼ3活性も有意に上昇していた。Luciferase reporter assayを用いた検討では、Men1-/-骨芽細胞におけるTGF-β、BMP-2反応性が著明に低下していた。さらにMen1 floxedマウスから初代培養した骨芽細胞にアデノウィルスを用いてCre発現を誘導した系においても、menin発現低下によって骨芽細胞分化は有意に抑制され、骨細胞マーカーが上昇することが確認された。Men1osb-/-マウスとは対照的に、Men1osbTG/+マウスでは、骨芽細胞数増加、骨形成亢進に伴う海綿骨量増加が認められた。Men1osbTG/+マウスより単離した骨芽細胞では、細胞増殖能は有意に低下するがRunx2、osteocalcin、type 1 collagenなどの分化マーカー発現は有意に増加し、石灰化能も増強されていた。以上の結果より、骨芽細胞におけるmeninはTGF-β、BMP-2シグナルの下流で重要な役割を担っており、細胞増殖は抑制するが、骨芽細胞分化・石灰化は促進し、さらにアポトーシス抑制と骨細胞への最終分化を抑制することにより骨芽細胞機能を高めることが考えられた。また、骨芽細胞におけるRANKL発現を介して骨芽細胞-破骨細胞カップリングにも重要な因子であることが示唆された。

著者コメント

島根大学で杉本利嗣教授のもと、骨芽細胞を用いた基礎的研究のご指導をいただき、2009年よりカナダ、モントリオールにあるマギル大学カルシウム研究室のHendy先生の教室に留学する機会を与えていただきました。日本では動物実験をした経験がなかったので、苦労することも多かったのですが、本研究を通じて、骨を構成する様々な細胞が干渉しあいながら微小環境を形成していることを改めて実感し、ますます骨研究に魅力を感じるようになりました。2012年に帰国後、島根大学にて新たな研究プロジェクトを立ち上げ、現在も研究活動を続けています。いつか自分の研究が患者さんのためになることを願って、今後も頑張っていきたいと思います。(島根大学医学部内科学第一・金沢 一平)