破骨細胞が分泌するCthrc1は骨吸収から骨形成へのカップリング因子として働く
著者: | Takeshita S, Fumoto T, Matsuoka K, Park KA, Aburatani H, Kato S, Ito M, Ikeda K. |
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雑誌: | J Clin Ivest. 2013 Sep 3; 123(9):3914-24. |
- 骨カップリング因子
- 骨リモデリング
- 破骨細胞
論文サマリー
骨は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成により常に壊されては新しくつくりかえられる骨リモデリング(骨改造)により、しなやかさと強さが維持される。骨吸収から骨形成へのカップリング(共役)機構は50年以上前に発見された現象であるが、長らくその実態は明らかにされてなかった。近年、TGF-β、S1Pやエフリンなどがカップリング因子として機能していることが報告されたが、破骨細胞が分泌するタンパク性のカップリング因子については報告されてなかった。
我々は、カップリング機構における骨吸収活性の重要性に着目し、マイクロアレイの手法を用いて破骨細胞が骨吸収する時に特異的に発現上昇する遺伝子を検索し、Collagen triple helix repeat containing 1 (Cthrc1)を見出した。Cthrc1はアディポネクチンと類似し、コラーゲン様領域をもつ補体C1qファミリーに属する分泌タンパクであり、血管に障害を与えたときに誘導される分子として報告されていた。Cthrc1は破骨細胞が骨吸収するときに発現上昇し、その遺伝子産物は骨芽細胞に作用し、骨形成を促進することをin vitroの実験で確認した。また、その遺伝子発現は骨吸収活性に依存し、細胞外カルシウム濃度の上昇が転写活性化の一つであることを突き止めた。Cthrc1の生体内の機能を明らかにするためにカテプシンK-creマウスを用いて破骨細胞特異的コンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作出したところ、cKOマウスは若年齢で骨芽細胞の機能低下による低骨量を発症することが分かった。
なお、この結果は、軟骨細胞にBMP-2を処理すると発現誘導する遺伝子としてCthrc1を同定した秋山先生らのグループによるグローバルKOマウスが低骨量であることと一致していた。次に、Cthrc1のカップリング機能を調べるために、マウスにRANKLを投与することで骨吸収から骨形成へのカップリングを評価するアッセー系を確立し、cKOマウスのカップリング機能を解析した。
その結果、RANKL投与10日後の最低骨量は野生型と同程度だったが、cKOマウスでは骨吸収後に見られる骨形成に障害が認められ、2ヶ月後の骨量は野生型と比較すると70%程度にしか回復しなかった。これらの結果から、Cthrc1は破骨細胞が骨吸収するときに発現誘導され、骨芽細胞に働き骨形成を促進するカップリング因子であることをマウスの生体内で実証した。
著者コメント
今から17年ほど前、RANKLが発見される以前に破骨細胞分化因子をクローニングする目的で、M-CSF産生細胞を樹立し、その培養上清を使って純化したマクロファージを増やす方法を開発し、さらにSV40T抗原トランスジェニックマウスから破骨細胞分化をサポートする骨髄ストローマ細胞株を樹立した。それ以来、いつの日か骨吸収に依存する因子を見つけたいと妄想を抱いていた。
2004年末に米国から帰国し、池田恭治先生とともにカップリング機構の解明に取り組み、長崎大・伊東昌子先生とラボメンバーの多大な協力を得て大量のマウスと格闘しながらようやくカップリング機構の一端を明らかにすることができました。(国立長寿医療研究センター・竹下 淳)