日本骨代謝学会

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Matrix-embedded osteocytes regulate mobilization of hematopoietic stem/progenitor cells.

著者:Asada N, Katayama Y, Sato M, Minagawa K, Wakahashi K, Kawano H, Kawano Y, Sada A, Ikeda K, Matsui T, Tanimoto M.
雑誌:Cell Stem Cell. 2013 Jun 6;12(6):737-47.
  • 骨細胞
  • 造血幹細胞ニッチ
  • G-CSF

淺田 騰

論文サマリー

すべての血液細胞の元となる造血幹細胞は、普段は骨髄の中のニッチに存在するが、サイトカインであるgranulocyte colony-stimulating factor (G-CSF)を投与することにより、末梢血中に誘導することができる(動員という現象)。こうして末梢血中に誘導した造血幹細胞を回収し、白血病をはじめとした血液悪性腫瘍の治療である造血幹細胞移植に応用している。しかし、G-CSF投与による造血幹細胞の動員メカニズムには未だ謎が多い。我々は、骨髄を取り囲む骨組織に注目して造血幹細胞ニッチとの関係を研究してきた。

本研究では、骨組織に埋もれて存在する「骨細胞」に注目し、造血幹細胞動員メカニズムへの役割を検討した。はじめに、G-CSF投与が骨関連細胞に与える影響を検討するため、G-CSF投与後の野生型マウスの骨から骨芽細胞分画と骨細胞分画を単離し、各分画での遺伝子発現の変化を解析したところ、G-CSF投与により骨細胞関連遺伝子が、骨芽細胞よりも早い段階で抑制を受けることが明らかとなった。さらにphalloidin染色による骨細胞の形態解析を行ったところ、G-CSF投与により骨細胞から出る細胞突起が著明に抑制されており、骨細胞はG-CSF刺激により抑制されることが考えられた。
また、骨髄腔に近い骨細胞はβ2アドレナリン受容体を発現しており、交感神経を外科的に除去した骨組織ではG-CSFによる骨細胞遺伝子の抑制が見られなかったことから、G-CSFにより惹起された交感神経刺激が骨細胞の変化を引き起こすことが示唆された。
次に、G-CSFによる造血幹細胞の動員における骨細胞の役割を直接検討するため、DMP-1-DTR Tgマウスを用いて、骨細胞が少ないosteocyte less(OL)マウスを作成し、G-CSFによる動員効率を比較したところ、OLマウスではG-CSFによる動員が著しく障害されていた。また、老化モデルマウスとして知られるKlotho hypomorphicマウス(kl/kl)は、骨細胞の配列異常を示すことが報告されている。

我々の検討結果より、kl/klは骨細胞ネットワークが破綻しており、G-CSFによる造血幹/前駆細胞の動員がほとんど起こらず、先のOLマウスの結果と同様であった。これらの結果より、造血幹/前駆細胞の骨髄からの動員には、健常な骨細胞ネットワークが必要であることが考えられた。本研究の結果から、造血システムは、骨組織や神経組織といった多臓器からの影響を受けて制御されていることが一段と明らかとなった。また、骨細胞は重力などの荷重を感知するセンサーとしての機能を持つことが知られており、寝たきり状態や宇宙空間での無重力状態が造血に及ぼす影響などの理解へ繋がることが期待できる。

淺田 騰

著者コメント

硬組織に埋もれている骨細胞の解析は、骨の硬さに阻まれ多くのハードルがあり、かなりハードなものでしたが、phalloidin染色で初めて奇麗な骨細胞ネットワークを観察できた時は、生命の美を目の当たりにし、感動したことを覚えています。また、骨細胞と血液という一見なんの関係もなさそうな細胞間に制御機構が存在することを知り、生命の複雑さを実感しました。
本研究は、指導して下さった片山義雄先生、谷本光音先生をはじめとし、多くの方々に支えられ完遂することができました。幸運にも、学内に骨細胞をはじめとした骨組織研究を精力的にされている研究者の先生方がいらっしゃり、惜しみない助言と技術提供を頂けました。
本研究にご助力頂けましたすべての方々へ心より感謝致します。(岡山大学血液・腫瘍・呼吸器内科学 淺田 騰)