日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 石原 嘉人

生きた骨組織表層へ付与した流体剪断応力に対する
カルシウムシグナリングのリアルタイム観察

Ex vivo real-time observation of Ca2+ signaling in living bone in response to shear stress applied on the bone surface.
著者:Ishihara Y, Sugawara Y, Kamioka H, Kawanabe N, Hayano S, Balam TA
Naruse K, Yamashiro T.
雑誌:Bone. 2013; 53(1): 204-215.
  • 骨細胞
  • 骨芽細胞
  • イメージング

上岡 寛

論文サマリー

骨は,外界からの力学的負荷を感受し, 認識・応答することで組織としての恒常性を維持しており, その調節には骨表面に存在する破骨細胞や骨芽細胞, 骨深部に存在する骨細胞との3次元的な細胞間ネットワークを介したクロストークが関与すると考えられている. しかしながら, 骨組織中での力学的負荷に対する細胞応答の詳細な動態は, 細胞周囲の骨基質が障壁となるため不明であり, 過去の研究の多くは, 2次元的な培養細胞上で得られた結果であった. 本研究は, 近年我々が確立した骨組織をまるごと生きた状態のままカルシウム(Ca2+)イメージングする手法 (Ishihara et al, Bone. 2012) を応用・発展させ, 骨表層への力学的負荷に対する細胞内Ca2+応答の動態について, 骨芽細胞および骨細胞でのリアルタイム観察を行った.

実験は, ニワトリ胚から摘出した骨組織を生きたままCa2+蛍光指示薬で標識し, 蛍光輝度の上昇を指標に共焦点レーザー顕微鏡を用いて時空間的解析を行った. その結果, 骨表面への流体剪断応力を与えた場合の骨芽細胞と骨細胞のCa2+応答率は, 定常状態と比較しそれぞれ約3倍と2倍に上昇し, 応答細胞群における反応頻度は, 骨芽細胞においてのみ上昇した. 細胞間ネットワークにおける情報伝達系の一つであるギャップ結合の阻害剤を前投与した場合のCa2+応答は, 骨細胞では応答率および反応頻度について顕著な減少を来したのに対し, 骨芽細胞では反応頻度においてのみ減少を認めた.

これらの結果から, 骨組織への力学的負荷に対する骨系細胞の応答には, 細胞種による差異があることが示された. また, 骨細胞でのCa2+応答にギャップ結合が深く関与している可能性が示唆された. 本研究で示した実験系は,3次元的な生体システムおよび微小環境を維持しており,得られた結果は生体をより反映したでものであると考えられる. 今後,骨細胞ネットワークの力学的負荷に対する機能探索の有用なモデルとして,本手法をさらに応用・発展させる一方,マウスジェネティクスを用いた疾患モデルにおける検討を行うことで骨細胞が担う役割のさらなる解明を進めていきたい.

上岡 寛

著者コメント

「骨基質に覆われている骨細胞を生きた組織の中で観察する」という上岡先生から大学院博士課程時代に与えて頂いたテーマを, メカニカルストレスの分野で出来ないものか?という発想から始まった研究です. 骨組織内のバイオイメージングは骨基質という実験の障壁が存在しており, 今回の研究成果に辿り着くまでに数多くの失敗と試行錯誤が続きました. そんな結果の出ない時期も温かく支えて下さった諸先生方に心より感謝致しております.(岡山大学・石原嘉人)